要約
「ウシルーメン発酵由来メタン排出量推定マニュアル」において黒毛和種肥育牛を対象として提案したメタン排出量推定式の精度を検証した結果、推定値と実測値はよく一致したため、本推定式は生産現場でメタン低減資材の効果を検証する目的等への利用が期待できる。
- キーワード : メタン排出量推定式、肥育牛、呼気中メタン/二酸化炭素濃度比
- 担当 : 畜産研究部門・乳牛精密管理研究領域・乳牛精密栄養管理グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
ウシからのメタン排出量の正確な測定にはチャンバーまたはヘッドボックスといった特別な設備が必要であることがメタン排出量削減研究を進める上での制限要因となっている。そのため、農研機構が代表を務めた気候変動緩和コンソーシアムは「ウシルーメン発酵由来メタン排出量推定マニュアル」(2022年3月発行)において、肥育牛の飼料エネルギーの代謝特性に基づく理論式として、黒毛和種肥育牛のメタン排出量推定式を提案している。また、この推定式を使用するためには個々の肥育牛から呼気中のメタン/二酸化炭素濃度比を測定する必要があることから、その測定法(スニファー法:飼槽等を利用して呼気の一部を採取する方法)も併せて提案しており、生産現場でのメタン排出量推定を可能としている。しかし、提案した推定式の精度が検証されていないことが黒毛和種肥育牛のメタン排出量削減研究への利用における課題となっている。そのため、本研究ではヘッドボックスを用いて実測したメタン排出量を用いて推定式の精度を検証する。
成果の内容・特徴
- 精度を検証した黒毛和種肥育牛のメタン排出量推定式は式1の通りである。この式を整理すると、必要な測定項目は呼気中のメタン/二酸化炭素濃度比、体重、飼料摂取量、および飼料成分であり、生産現場で測定可能な情報のみによってメタン排出量を推定できることがこの式の特徴である。
- メタン排出量の実測はヘッドボックス法(図1)によって行っている。この方法は、外気の流入と排気が管理されたボックスでウシの頭部と飼槽を覆うことで個体が排出したガスを全量回収し、ガス濃度と流量からガス排出量を実測することが可能である。
- 推定式の精度検証のために使用した黒毛和種去勢牛8頭(平均17か月齢)の試験期間中の基礎データは表1の通りである。
- 推定式によって算出したメタン排出量推定値とヘッドボックスによって測定したメタン排出量実測値には当てはまりの良い(決定係数は0.96)直線的な関係がある(図2)。
成果の活用面・留意点
- 本研究により精度を確認した推定式は生産現場でメタン低減資材の効果を検証する目的等に利用可能であると考えられ、メタン排出量削減研究の加速化が期待される。
- 推定式は黒毛和種肥育牛のみに適用できる。
- 回帰式の(図2)傾き(0.76)および切片(21.2)は理想的な値(傾き1、切片0)とずれているが、これはヘッドボックスでの測定による採食量の大幅な低下が原因で、測定時の個体の生理状態が通常の生産状態を反映しなかったことに起因する可能性がある。回帰式の傾きおよび切片の妥当性については今後データを追加して再度検証する必要がある。
- 本研究は推定式自体の精度を確認したものであり、推定式中のメタン/二酸化炭素濃度比にはヘッドボックス法により算出した日平均値を使用している。実際の生産現場におけるスニファー法を使用した呼気中のメタン/二酸化炭素濃度比の測定精度については別途検討する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究の推進:畜産からのGHG排出削減のための技術開発、戦略的プロジェクト研究推進事業:畜産分野における気候変動緩和技術の開発)
- 研究期間 : 2020~2023年度
- 研究担当者 : 及川康平、鈴木知之、神谷裕子、樋口幹人、山田知哉、神谷充、寺田文典
- 発表論文等 :
Oikawa K. et al. (2023) Animal Science J. 94:e13828