搾乳牛のメタン排出量算出に用いる呼気中メタン/二酸化炭素濃度比の解析を自動化

要約

ガス分析計で測定された搾乳ロボット内のメタン(CH4)と二酸化炭素(CO2)濃度の連続データと、搾乳ロボットが記録する個体番号と搾乳時刻のデータを照会し、個体の搾乳ロボット訪問毎平均CH4/CO2濃度比を自動解析するプログラムであり、多頭数のCH4/CO2濃度比の解析を容易にする。

  • キーワード : 消化管内発酵由来メタン、搾乳ロボット、二酸化炭素、搾乳牛、スニファー法
  • 担当 : 畜産研究部門・乳牛精密管理研究領域・乳牛精密栄養管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

反すう家畜の消化管内発酵由来メタンCH4の排出は、農業分野からの主な温室効果ガス排出源の一つとされており、わが国ではその大部分が牛のあい気(ゲップ)とともに排出されるCH4である。農研機構は、多頭数でのメタン排出量算出法として、搾乳ロボット等で測定した牛呼気中のCH4/CO2濃度を用いて1日のCH4排出量を求めるスニファー法向けの簡易な算出式を提案している。搾乳ロボットでのガス測定は、ガス分析計で搾乳ロボット内のCH4とCO2濃度を連続測定することにより行われる。測定後、ガス分析計から出力される1秒毎濃度データから個体の訪問毎平均CH4/CO2濃度比を求めるためには、搾乳ロボットが記録する搾乳情報とのすり合わせから始まる様々な作業が必要になる。精度よくCH4排出量を算出するためには5日間程度の連続測定が必要とされており、例えば1台の搾乳ロボットで50頭の乳牛が1日平均3回搾乳される場合、期間中に搾乳ロボットを訪問する乳牛は延べ750頭と多量のデータの解析が必要になり多くの時間を要する。そのため、誰でも容易に利用できるCH4/CO2濃度比の自動解析手段が求められていた。そこで、これを自動化するプログラムを作成する。

成果の内容・特徴

  • 本プログラムは、Rスクリプトによって記述されており、搾乳ロボットから出力される個体番号と搾乳時刻の時系列データ、およびガス分析計から出力される1秒毎のCH4濃度およびCO2濃度データの取り込み、ガス濃度出力の個体別切り分け、乳牛不在時(バックグラウンド)ガス濃度の算出、バックグラウンド補正後濃度の算出、不適合値除去、個体別の搾乳ロボット訪問毎平均CH4/CO2濃度比の算出よりなる(図1、2)。
  • 本プログラムでは搾乳ロボット内ガス濃度の推移に乳牛の搾乳ロボット入退室時刻を重ねたグラフを出力するため、ガス濃度出力の個体別切り分けの妥当性を視覚的に確認することができる(図2)。
  • 搾乳ロボットとガス分析計内蔵時計のズレからガス濃度出力の個体別切り分けが不適当な場合は、時刻差を入力することにより容易に修正することができる。また、不適合値はCO2濃度から判断するが閾値を変更することができる。
  • プログラム実行時間は24時間のガス濃度データを解析した場合、数秒である。

成果の活用面・留意点

  • 本プログラムは農研機構職務作成プログラムとして登録されている。
  • 本プログラムを実行するためには事前にRをインストールしておく必要があり、さらに統合開発環境RStudioもインストールしこれを利用することが望ましい。
  • 搾乳ロボットからのデータとガス分析計からのデータはcsvファイルとし、解析結果はcsv形式で出力される。

具体的データ

図1 本プログラムの解析の流れ,図2 CH4/CO2濃度比の連続データから個体別に搾乳ロボット訪問毎の平均値を算出

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(戦略的プロジェクト研究推進事業:畜産分野における気候変動緩和技術の開発、農林水産研究の推進:畜産からのGHG排出削減のための技術開発)
  • 研究期間 : 2018~2023年度
  • 研究担当者 : 及川康平、鈴木知之、神谷裕子
  • 発表論文等 :