要約
乳用種妊娠牛の心拍数は分娩日に上昇する。行動において、睡眠の時間割合は分娩日に減少する。また、分娩日において伏臥位反芻の時間割合は減少し、立位反芻は増加する。ただし、伏臥位反芻と立位反芻を合計した反芻の時間割合は分娩日とそれ以前で変化しない。
- キーワード : 乳用牛、分娩予測、自律神経、心拍変動解析、分娩前行動
- 担当 : 畜産研究部門・動物行動管理研究領域・動物行動管理グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
分娩時期の予測は、母牛を分娩房へ移動するタイミングや飼養者の分娩介助(特に夜間)への準備など分娩事故を防ぐための作業計画を立てる際に役立つため、養牛生産現場では重要である。近年、非侵襲的に自律神経活動の把握が可能となる心拍間隔のゆらぎを解析する手法(心拍変動解析)が家畜にも応用され、自律神経活動の変化から疾病の検知やストレス評価が行われてきている。妊娠末期から分娩にかけては、血中ステロイドホルモンの変化など母牛の生理的な変化が大きいため、心拍変動解析によって分娩時期を予測できる可能性が考えられる。そこで本研究では、乳用種妊娠牛の分娩前数日間における心拍変動と行動を調査することで、分娩時期の予測に有益な指標を得る。
成果の内容・特徴
- 乳用種妊娠牛(n=8)を用いて、分娩時を基準として分娩120時間前までの心電図データを24時間ごとに解析すると、妊娠牛の心拍数は分娩日(分娩前24時間から分娩まで)に上昇する(図1a)。また、心電図データを周波数解析することにより得られる低周波帯域(LF: 0.04-0.1 Hz、交感神経活動と副交感神経活動の両方を反映)と高周波帯域(HF: 0.1-1.0 Hz、副交感神経活動を反映)については、分娩日においてLFは減少し、HFは増加する(図1b及びc)。
- 妊娠牛の24時間ごとの行動時間割合においては、睡眠の時間割合は分娩日に減少する(図2)。
- 分娩日において伏臥位反芻の時間割合は減少する。一方、立位反芻は増加する。ただし、伏臥位反芻と立位反芻を合計した反芻の時間割合は分娩日とそれ以前で変化しない(図2)。
成果の活用面・留意点
- 本研究で観察された分娩前の変化は、分娩時期の予測において、有益な指標となる可能性がある。
- より早い時期に精度高く分娩時期を予測するための新たな指標については、解析方法を含め今後検討する必要がある。
- 本研究では繋ぎ牛舎で取得されたデータを用いているため、フリーストール牛舎など飼養形態が異なる場合における本研究成果の適用可能性について検証する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2021~2023年度
- 研究担当者 : 兒嶋朋貴、黄宸佑、矢用健一
- 発表論文等 : Kojima T. et al. (2024) Anim. Biosci. 37: 944-951