豚熱経口ワクチンの散布に有効な散布エリアの選択方法

要約

豚熱経口ワクチンの散布を行う場合、広葉樹林や竹林での散布は季節により摂食率が大きく異なる可能性がある。一方で休耕地は一定の摂食率が期待できる。ただし、農地での農作物被害誘発の危険性があるため、双方の環境が接する林縁部を中心に散布エリアを選択することが有効である。

  • キーワード : 豚熱、豚熱経口ワクチン、散布場所選択、林縁部
  • 担当 : 畜産研究部門・動物行動管理研究領域・動物行動管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

2018年に国内で26年ぶりに発生した豚熱は2023年12月10日現在、20都県で飼養豚での発生が確認されている。一方、34都府県でイノシシにおいて豚熱陽性個体が確認されており、有効な対抗策の一つとして豚熱経口ワクチンの散布が年2期間(前期散布:6~8月、後期散布:10~1月)で行われている。この経口ワクチン散布は狩猟者等と連携して各地で実施されているが、散布場所の選択や散布範囲の検討は狩猟者の経験則によるところが大きく、地域によって経口ワクチンのイノシシによる摂食率にばらつきがあるとされる。そこで本研究では経口ワクチン散布場所の標高や地形、植生などの環境要因の分析結果と散布時期ごとの経口ワクチンの摂食状況を比較し、ワクチン散布時に有効な環境の選択方法を明らかとすることで、経口ワクチン散布のさらなる高効率化を図る。

成果の内容・特徴

  • イノシシによる豚熱経口ワクチンの摂食の有無を目的変数とし、経口ワクチン散布エリアにおける各環境要因の比率を説明変数として一般化線形混合モデルで解析を行い、影響度を求めた(図1)。
  • 経口ワクチン散布適地の一つである広葉樹林では、イノシシのエサとなる堅果類がない時期にあたる前期散布(6~8月)で経口ワクチンの摂食率が低下する可能性が高い(図1a, c)。
  • 同様に竹林においては、タケノコのない後期散布(10~1月)で経口ワクチンの摂食率が低下する可能性がある(図1b, d)。
  • 休耕地は一年を通してワクチン散布時にある程度の摂食率が期待できる(図1a, b, c, d)が、一方で周辺の農地での被害発生を誘発する危険性がある。
  • そのため、農地から一定の距離があり、複数の植生、環境が複合する林縁部が経口ワクチンの散布場所として有効である。

成果の活用面・留意点

  • 散布場所の選択において植生等の環境を把握することは重要であるが、同時にイノシシがその場所を利用(主に採食場として利用)する季節にも留意して散布場所を選択する必要がある。
  • 前期散布と後期散布の間で摂食率に大きな差が生じている場合、両期間の経口ワクチン散布において散布場所を分けることも必要である。
  • 地域によりイノシシの出没状況と生息地利用のパターンが異なる可能性があることから、狩猟者と連携するとともにセンサーカメラ等による調査を同時に行うことも重要である。

具体的データ

図1 植生等の環境要因が豚熱経口ワクチンの摂食率に及ぼす影響

その他

  • 予算区分 : 交付金、その他外部資金(JRA畜産振興事業)
  • 研究期間 : 2021~2023年度
  • 研究担当者 : 平田滋樹、遠藤友彦、長沼知子、早山陽子、小寺祐二(宇都宮大)、竹内正彦
  • 発表論文等 : Endo. T. et al. (2023) European J. Wildlife Res. 69(102): 2-9