初産牛における泌乳初期の血中遊離脂肪酸濃度とルーメン発酵の関係

要約

泌乳初期の初産牛の血中遊離脂肪酸(NEFA)濃度が低い群では、プロピオン酸濃度比率が高く、プロピオン酸推定産生量も多い。ルーメン内短鎖脂肪酸産生量の推定により、飼料摂取量と乳生産の関係の新しい視点での比較が可能となり、牛体内における栄養素の動態の一部が明確になる。

  • キーワード : エネルギーバランス、血中遊離脂肪酸(NEFA)、短鎖脂肪酸、乳牛、ルーメン発酵
  • 担当 : 畜産研究部門・乳牛精密管理研究領域・乳牛精密栄養管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

酪農業では、遺伝的改良や飼養管理技術の改善により1頭当たりの乳生産量が増加傾向にある。一方で、乳生産量の増加に伴い摂取エネルギーと要求エネルギーのバランスが崩れている(負のエネルギーバランス)。特に、乳量の増加が大きい泌乳初期に生産病が増加しており、健全性と生産性を両立した精密飼養管理が求められている。第一胃(ルーメン)の発酵産物である短鎖脂肪酸は、乳牛の主要なエネルギー源であり、エネルギーバランスと密接に関係している。しかし、ルーメン内の短鎖脂肪酸濃度は発酵による生産と胃壁からの吸収のバランスに影響されるため、濃度のみでルーメン発酵状態を把握することは難しい。そこで、本研究ではメタン産生量を用いた短鎖脂肪酸産生量推定法を利用して、飼料摂取量および乳生産量とルーメン内での短鎖脂肪酸推定産生量とを関連付け、牛体内における栄養素やエネルギー動態の量的な解明を試みる。

成果の内容・特徴

  • 分娩後3週目の初産牛52頭を、血中遊離脂肪酸(NEFA)濃度の高低で2群に分ける。低NEFA群および高NEFA群の血中NEFA濃度は、それぞれ250.9μEq/Lおよび763.9μEq/Lである(表1)。可消化養分総量(TDN)充足率および体重減少率が、高NEFA群で低NEFA群より有意に低いことから、高NEFA群の方が相対的に強い負のエネルギーバランス状態であると推測される。
  • ルーメン内の総短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸および酪酸の合計)濃度に対する各短鎖脂肪酸の濃度比率については、高NEFA群に比べて低NEFA群で酢酸濃度比率が低く(P<0.05)、プロピオン酸濃度比率が高い(P<0.1)。
  • 高NEFA群に比べて低NEFA群では、酢酸推定産生量には差がなく(P=0.85)、プロピオン酸推定産生量が多い(P<0.01)。酢酸濃度比率と酢酸推定産生量の群間差に違いがみられたことは、プロピオン酸推定産生量の違いによると考えられる。短鎖脂肪酸の産生量を推定することで、ルーメン発酵の特性を濃度とは異なる視点で把握できることが期待される。
  • 飼料摂取量あたりの総短鎖脂肪酸推定産生量に群間差が無い(図1)。ルーメン内における飼料から総短鎖脂肪酸への変換効率は、いずれの群でも同程度であったと考えられる。
  • 総短鎖脂肪酸推定産生量あたりの乳脂肪補正乳量では、高NEFA群の方が高い(図2)。このことから、低NEFA群と高NEFA群のエネルギーバランスの違いは、ルーメン発酵以降の生体プロセスに起因することが示される。

成果の活用面・留意点

  • 血中遊離脂肪酸濃度とルーメン発酵の関係性が認められる。ルーメン発酵の短鎖脂肪酸濃度比率に加えて短鎖脂肪酸推定産生量の情報を用いて、牛体内における栄養素やエネルギー動態を把握し、飼料摂取量および乳生産量と関連付けることで、乳牛の健全性と生産性を両立した飼養管理の検討が可能である。
  • 短鎖脂肪酸産生量は、メタン産生量を用いた短鎖脂肪酸産生量推定法(Mitsumori et al. 2019)を利用し算出している。今後、精度の検証が必要である。
  • 泌乳初期の初産牛における泌乳成績およびルーメン発酵の特性である。数値は、飼料構成により変動する可能性がある。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(ムーンショット型農林水産研究開発事業)
  • 研究期間 : 2016~2023年度
  • 研究担当者 : 澤戸利衣、三森眞琴、野中最子、寺田文典(農研機構)、林登(岐阜中央家保)、傍島英雄(岐阜畜セ)、大澤玲(埼玉畜セ)
  • 発表論文等 :
    • Mitsumori M. et al. (2019) Animal Science J. 90:1556-1566
    • Sawado R. et al. (2024) Animal Science J. 95:e13988