要約
泌乳記録を用いて推定した泌乳前期のエネルギーバランスは、遺伝的改良が可能である。泌乳前期のエネルギーバランスを遺伝的に改良することで、繁殖性の向上が期待できる。経産牛では泌乳前期の推定エネルギーバランスの低さが繁殖性の低さの目安となる。
- キーワード : エネルギーバランス、乳用牛、牛群検定、遺伝的パラメーター、繁殖性
- 担当 : 畜産研究部門・乳牛精密管理研究領域・乳牛精密栄養管理グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
乳用牛は分娩から2~3ヶ月の泌乳前期において一気に乳量が増加するため、採食によるエネルギー供給が追いつかなくなる。要求量に対する採食エネルギーの不足による負のエネルギーバランス状態は、乳用牛の健康に悪い影響を与えるため改善策の開発が求められる。改善策の一つとして遺伝的な改良が考えられる。しかし、エネルギーバランスを実測して遺伝的に改良するには、多くの個体でデータを収集する必要があるために、手間や費用かがかかり困難である。
そこで本研究では、乳用牛群検定において国内で飼養されている搾乳牛の約6割から毎月収集される、多くの個体の泌乳記録を用いて推定したエネルギーバランスの値を指標とした、エネルギーバランスの遺伝的特性を明らかにする。また泌乳前期のエネルギーバランス状態と繁殖形質の間の遺伝的な関連性を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 乳用牛群検定において収集された576,555頭の9,646,606記録について、分娩後日数、乳量、乳蛋白質率、乳脂率/乳蛋白質率の比、乳糖率、日乳量変化量を用いて推定エネルギーバランスを算出する。
- 泌乳前期(分娩後105日まで)における推定エネルギーバランスの平均値の遺伝率は、初産で0.38、2産で0.22、3産で0.13である(表1)。泌乳前期のエネルギーバランスは選抜によって遺伝的な改良が可能である。
- 泌乳前期の推定エネルギーバランス平均値と、繁殖形質との遺伝相関は、初回受精受胎率で0.04~0.19、授精回数で-0.03~-0.19、空胎日数で-0.01~-0.24である(表1)。初産ではほとんど遺伝的な関連性がない。2産および3産では泌乳前期のエネルギーバランスが低いと、受胎率は低く、授精回数は多く、空胎日数は長いという関係がある。
- 2産および3産における、泌乳前期の推定エネルギーバランス平均値と実際の繁殖成績との関係では、初回授精において受胎群より不受胎の群の推定エネルギーバランスが低い(図1)。また、授精回数が多い群(図2)、空胎日数が長い群(図3)ほど推定エネルギーバランスが低い傾向がある。すなわち2産および3産の牛群では、泌乳前期の推定エネルギーバランスが繁殖性の低さの目安になる。
成果の活用面・留意点
- 泌乳前期における乳用牛のエネルギーバランスについて、種雄牛の遺伝的能力評価を行う際の基礎的な知見として活用できる。
- 繁殖性の改善には2産以降の推定エネルギーバランスの遺伝的能力評価値を用いることが望ましい。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、民間資金等(日本中央競馬会畜産振興事業)
- 研究期間 : 2022~2024年度
- 研究担当者 : 西浦明子、佐々木修、山崎武志、山口茂樹(家畜改良事業団)、萩谷功一(帯畜大)、中川智史(北酪検)、阿部隼人(北酪検)、中堀祐香(北酪検)、齋藤ゆり子、舘林亮輝、増田豊(酪農大)
- 発表論文等 : Nishiura A. et al. (2024) Anim. Sci. J. 95:e13968