要約
高品質のウシ体外受精卵を作製するため、不死化ウシ卵管上皮細胞の樹立、その馴化培地によるウシ体外受精卵の発生促進効果の確認、超遠心による馴化培地中の有効因子の分離を行った。このシステムにより高受胎性の見込まれるウシ体外受精卵を効率的に生産しうる培地が安定生産される。
- キーワード : 不死化ウシ卵管上皮細胞、馴化培地、高受胎性、超遠心分離
- 担当 : 畜産研究部門・乳牛精密管理研究領域・乳牛繁殖性向上グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
酪農や肉牛生産の現場では、畜産物需要の増加に応えるため、体外受精の技術で生産した受精卵の移植が活用されている。しかし、ウシの体外受精卵による受胎率は30年以上40%程度で留まっている。この原因として受精卵の低品質も考えられるため、高品質な体外受精卵を効率的に生産する方法の開発が求められている。受精卵を母胎内に近い環境で培養する目的で、受精や初期発生の場である卵管から採取した上皮細胞を増殖させて作製した培地(馴化培地)を利用することが試みられてきた。しかし、培養細胞は寿命が短いため、馴化培地を安定的に生産できないという課題がある。
そこで、本研究では細胞の寿命を半永久化した不死化ウシ卵管上皮細胞を樹立し、その馴化培地を安定的に生産しうるシステムの開発を行うとともに、馴化培地中の有効因子の超遠心分離を試みる。
また、体外受精卵の品質の判定には、既存の報告で最も有効と考えられる受精後2日間の発生様態に基づく「四指標」を採用し、不死化ウシ卵管上皮細胞の馴化培地によって培養した体外受精卵のうち四指標を満たす割合を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 卵管より得た上皮細胞を、テロメラーゼ活性やテロメア長を測定しつつ継代培養することで、細胞集団の通算分裂回数(集団倍化数)が200を超えてもなお旺盛な増殖能を持つ細胞株を得る。
- 馴化培地を作製するために、不死化したウシ卵管上皮細胞を10%FBS加D-MEM培地で直径10cmのコラーゲンディッシュにコンフルエントになるまで培養したのち、培地をKSOMに交換して48時間培養を行う。新たなKSOMと入れ替えることにより計3回の馴化培地が得られる。
- 馴化培地を体外受精卵の発生培養に使用することにより、四指標を満たした移植可能な体外受精卵(胚盤胞)を効率よく生産できる(図1)。
- 馴化培地を超遠心分離し、その沈降物をKSOMに懸濁して体外受精卵の培養に用いると馴化培地と同様の効果があるが、上清には効果がない(図2)。二元配置分散分析によると、馴化培地区およびKSOM+沈降物区で認められる発生促進効果は、沈降物の有無によるものである(表1)。超遠心沈降物を走査型電子顕微鏡で撮影すると、球形の物質が見つかり、エクソソームと同等のサイズを有する(図3)。
成果の活用面・留意点
- 不死化したウシ卵管上皮細胞は、遺伝子組換えによって作出されたものではないため一般の実験室で取り扱い可能である。
- 当馴化培地は不死化細胞に由来するため、生体あるいは屠体から卵管を採取せずとも容易に細胞を増やして等質の馴化培地および超遠心沈降物を安定的に生産・頒布できる。
- 既に、体外受精卵の高受胎性が見込まれる四指標が提案されている。すなわち、①媒精後27時間目までに第1卵割が終了し、②31時間目に2細胞期に達しつつ③細胞断片や突出部がなく、④55時間目に8細胞期以上に達している、というものである。発生速度に基づいて高品質受精卵を選別することができる。
- 超遠心分離による沈降物に含まれる有効因子の候補としてはエクソソームが挙げられる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(国際競争力強化技術開発プロジェクトR2補正)
- 研究期間 : 2016~2023年度
- 研究担当者 : 宮下範和、平尾雄二、赤木悟史
- 発表論文等 :
- 宮下ら「不死化したウシ卵管上皮細胞およびその利用」特開2022-119210(2022年8月16日)
- Miyashita N. et al. (2024) J. Repro. Dev. 70:42-48