要約
飼育ニホンジカの肩の冬毛は9月初旬から11月初旬まで一定速度で成長した後12月以降に成長停止する。成長期間中に採食した食物情報は体毛の炭素・窒素安定同位体比に反映される。この成果は野生個体の体毛から取得する食性情報の時期推定に有用である。
- キーワード : ニホンジカ、安定同位体、体毛、食性
- 担当 : 畜産研究部門・動物行動管理研究領域・動物行動管理グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
動物の体毛は採取が比較的簡便かつ食性履歴等の情報を保存することから、安定同位体比分析等の化学分析によく使われる。しかし成長動態は動物種によって大きく異なるため、対象動物の体毛の分析結果を正しく解釈するためには事前にその成長動態を把握する必要がある。ニホンジカは年2回換毛するが、特に冬毛は存在期間が長く採取機会が多い。本研究では飼育ニホンジカを用いて体毛の染色・剃毛・餌切り替え試験を実施し、冬毛の体部位別に成長動態を把握し、炭素・窒素安定同位体比分析により食性反映パターンを明らかにする。
成果の内容・特徴
- 飼育ニホンジカの肩と背の冬毛は9月初旬から11月初旬に一定速度で成長し(図1)、その後成長を停止する。頭と尻の冬毛は同期間中に成長するものの、成長速度は一定ではない(図1)。
- 冬毛の成長期間中に採食した食物情報は冬毛の炭素・窒素安定同位体比に反映されるが(表1)、背と尻の冬毛に反映される速度はやや遅い。
- ニホンジカの冬毛を化学分析に供する際は、肩の体毛を使用することが望ましい。
成果の活用面・留意点
- 冬毛の成長が完了した時期(12月~2月頃)に野生ニホンジカの体毛を採取・分析することにより、採取直前の秋の約2か月間に採食した食物情報が得られる。
- 3月以降に採取された体毛は、新たに成長した夏毛と前年に成長した冬毛が混在している可能性があるため、分析に供する際は注意が必要である。
- 本試験は本州中部地域にて飼育されたニホンジカを使用したものであり、生育環境が大きく異なる条件下では体毛成長動態にばらつきが生じる場合がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2021~2024年度
- 研究担当者 : 秦彩夏、長沼知子、中島泰弘、鵜野光、井上杏奈(アドベンチャーワールド)、嶌本樹(日本獣医生命科学大)
- 発表論文等 : Hata A. et al. (2024) Rapid Commun. Mass Spectrom. 38:e9920
doi.org/10.1002/rcm.9920