要約
イノシシによる水稲被害および対策を6年間追跡した成果と経営評価手法を組み合わせることにより、簡易電気柵の対策としての費用対効果を評価することができる。長期追跡により被害量および対策による被害減少率を評価でき、鳥獣害対策の政策的正当性を判断するために有効である。
- キーワード : イノシシ、水稲、小規模圃場、簡易電気柵、費用対効果
- 担当 : 畜産研究部門・動物行動管理研究領域・動物行動管理グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
簡易電気柵は常設電気柵とは異なり、被害が大きくなる時期のみ設置する電気柵である。獣害対策として全国的に利用されており、支援として多額の交付金が拠出されてきたが、被害状況及び対策による被害減少量を考慮した費用対効果は検証されていない。
そこで、本研究ではイノシシによる被害量および対策による被害減少量を6年間追跡調査した千葉県安房地域の1,192区画の水田圃場を対象に、被害対策にかかる費用として資材費および労働費を計測することで、水稲圃場におけるイノシシ対策としての簡易電気柵の費用対効果を明らかにする。通常、収益性の低い作物の保護や小規模圃場は費用対効果で不利になるため、そういった条件下で実証をおこなったことに意義がある。
成果の内容・特徴
- 千葉県による6年間の現地追跡調査により、イノシシによる水稲圃場の被害(食害および倒伏)は平均すると圃場区画の31.8%(表1)であり、簡易電気柵による被害減少率は74%である。
- 対策による費用対効果は、「対策によって減少した被害金額」から「対策実施にかけた支出」を差し引いた値とした。被害金額の計算に用いた水稲の粗収益は2009年から2019年の農業経営統計調査の平均値(1,093,665円/ha)とし、被害面積の最大値は表1の2015年の値を参照した。その結果、イノシシによる平均的な被害(30%程度)が想定される水稲圃場では、柵の総延長が120mで費用対効果が見合う計算となる(図1)。これは、1反(10a)の圃場の外周長に近い。
- イノシシによる被害リスクが低い農地や1反以下の区画では、水稲を保護するための簡易電気柵を単独区画で実施するのは推奨されないため、収益性の高い作物への転作、グループ柵の導入を検討すべきである。
- 1反の水田圃場では、100%被害を減少できるなら区画の23%被害の想定で費用対効果が認められる(図2)。
成果の活用面・留意点
- 水田圃場における簡易電気柵の設置計画を考えるうえで、政策の正当性を担保することができる。
- ここで利用した変数(特に面積当たりの収益や資材費)は年変動がみられるため、公開から時間が経った状況である場合は資材費の再検討が必要となる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究推進事業:省力的かつ経済的効果の高い野生鳥獣侵入防止技術の開発)、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2011~2024年度
- 研究担当者 : 松村広貴(千葉農林総研セ暖地園研)、中村大輔、小坂井千夏、竹内正彦、河名利幸(千葉農林総研セ暖地園研)
- 発表論文等 : Matsumura H. et al. (2024) Crop Protection 185:106900