不飽和脂肪酸カルシウム給与による乳牛の泌乳成績およびメタン排出への影響

要約

不飽和脂肪酸を多く含む脂肪酸カルシウムペレットを泌乳牛の飼料に1%添加しても、飼料摂取量や乳量、乳成分に悪影響は認められない。さらに、添加によりルーメン内のVFA組成ではプロピオン酸割合が増加し、乾物摂取量あたりの推定メタン排出量は低下する傾向にある。

  • キーワード : 脂肪酸カルシウム、メタン、泌乳牛、VFA
  • 担当 : 畜産研究部門・乳牛精密管理研究領域・乳牛精密栄養管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

反芻家畜の消化過程では、温室効果ガスの一つであるメタンが生成され、飼料から摂取したエネルギーの数%がメタンとして失われる。そのため、メタン発生量の削減は環境負荷の低減と生産効率向上の両面で重要である。脂肪酸カルシウムは従来、乳牛の飼養成績改善に利用されてきたが、近年はメタン排出削減の観点からも注目されている。特に、不飽和脂肪酸を多く含む脂肪酸カルシウムの給与はメタン排出を減少させる可能性が示唆されている一方で、乳成分に悪影響を及ぼすとの報告もあるため、その影響を確認する必要がある。本研究では、不飽和脂肪酸を含む脂肪酸カルシウムを泌乳牛に給与し、飼養成績への影響を評価するとともに、メタン排出抑制効果を検証する。

成果の内容・特徴

  • 対照区のPMR(Partly Mixed Ration : 部分的混合飼料)は、粗蛋白質含量約17%、中性デタージェント繊維含量約40%である。脂肪酸添加区のPMRは、対照区PMRに脂肪酸カルシウムを含むペレットを1%混合して調製している。
  • 脂肪酸カルシウムペレットを1%添加したことによりPMR中の粗脂肪含量は2.8%から3.3%に、不飽和脂肪酸であるC18:1(オレイン酸)およびC18:3(α-リノレン酸)の含量がそれぞれ0.35%から0.55%、0.16%から0.23%となる(図1)。
  • 供試牛10頭に約2週間、それぞれのPMRの自由採食に加えて、搾乳時に配合飼料を0.9kgDM/日給与した場合、総乾物摂取量は対照区で21.2kg/日、脂肪酸添加区で21.8kg/日であり、添加区で高い傾向にある(P<0.10)(図2)。乳量は両区ともに27.9kg/日であり(図2)、対照区および脂肪酸添加区の乳脂肪率は3.64%および3.67%、乳蛋白質率は3.56%および3.61%、乳糖率は4.51%および4.56%で、両区間で有意な差は認められない(P>0.10)。
  • 脂肪酸添加区では、ルーメン内のプロピオン酸割合が有意に高く(P<0.05)、酢酸/プロピオン酸比は低下する傾向にある(P<0.10)(表1)。
  • スニファー法により推定した総乾物摂取量あたりのメタン排出量は、対照区で27.8L/kgDM、脂肪酸添加区で26.8L/kgDMであり、脂肪酸添加区で低い傾向にある(P<0.10)(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 脂肪酸カルシウムを泌乳中期以降の乳牛に給与するときの基礎データとして利用できる
  • 脂肪酸カルシウムの添加に当たっては、飼料全体の粗脂肪含量を確認し、適切に飼料設計を行い、飼料の切り替えは採食量や糞の状況などを確認しながら少しずつ行う。
  • 脂肪酸カルシウムの原料油脂の種類や添加量が異なる場合の影響については、別途検討する必要がある。
  • 長期給与時の影響については、別途検討する必要がある。

具体的データ

図1 給与PMR中の脂肪酸含量(%),図2 供試牛の総乾物摂取量および乳量,表1 ルーメン内液性状,表2 推定メタン発生量

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(ムーンショット型農林水産研究開発事業)
  • 研究期間 : 2022~2025年度
  • 研究担当者 : 神谷裕子、鈴木知之、及川康平、小林大樹、藤岡宏樹
  • 発表論文等 : Kamiya Y. et al. (2025) Anim. Sci. J. 96:e70114