要約
一般的なウシ体外受精卵培養液ではセリンが100μM添加されているが、10倍濃度である1000μM添加することにより、高受胎の指標を満たした体外受精卵の作出効率が向上する。
- キーワード : ウシ、体外受精卵、発生、受胎、培養液、セリン
- 担当 : 畜産研究部門・乳牛精密管理研究領域・乳牛繁殖性向上グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
ウシ体外受精卵移植による産子の作出は、人工授精と比較して受胎率が低い。その原因の一つとして体外受精卵の品質評価が難しいことがある。高品質な体外受精卵の選抜手法として、受精卵の発生速度や形態に基づいて導出された高受胎性の4指標によるものがあるが、この方法は決められた培養時間における観察を必要とするため、大量生産には向かない。そのため、観察や選抜といった作業を行わなくても高品質な受精卵を効率的に作出できる培養液が求められている。一般的な体外受精卵発生培養液においては、7種類の非必須アミノ酸が均一濃度で添加されている。しかしこれは体細胞培養に一般的に使われている濃度であり、体外受精卵培養に適しているとは限らない。発生後半の胚盤胞への発生ではDNAメチル化が必須のイベントであり、DNAメチル化に必要な基質の量も発生への重要な条件である。非必須アミノ酸であるセリンの代謝産物にはDNAメチル化基質が含まれる。本研究ではウシ体外受精卵培養におけるセリンの適切な添加濃度とDNAメチル化基質量への影響を明らかにする。
成果の内容・特徴
- セリンを従来の100μMから1000μMで添加した際に、4指標達成胚盤胞の作出効率が向上する(P<0.05)。500μMでは効果が観察されない(図1)。しかし1200μM以上の濃度で添加すると、4指標達成胚盤胞の作出効率が減少するため、1000μMでの添加が適当だと考えられる。
- セリン1000μMでの添加は、55時間目までに指標を満たした胚の胚盤胞までの発生を促進する(P<0.05)(図2)。
- セリンは1000μMでの添加はDNAメチル化の基質の量を増加させるが、セリン代謝酵素の阻害剤はDNAメチル化基質の量を減少させる(P<0.05)(図3)。
- セリン代謝酵素の阻害剤の添加により、培養後半の胚盤胞への発生が顕著に阻害される(P<0.05)(図4)。
成果の活用面・留意点
- 発生過程の発生速度や形態に関する4つの指標とは、①媒精27時間後に2細胞に分割していること、②媒精31時間後に3細胞以上に分割していないこと、③媒精31時間後に細胞断片が存在しないこと、④媒精55時間後に6細胞以上に分割していることである(今井ら、2015、日本胚移植学雑誌)。
- 常法により選抜された胚盤胞の移植後の受胎率は40%程度であるため、受胎率が70%を超えるとされる4指標達成胚盤胞を増産できる培養液を開発することは受精卵移植の普及に向けて有効である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、その他外部資金(伊藤記念財団研究助成)
- 研究期間 : 2022~2024年度
- 研究担当者 : 伊丹暢彦、赤木悟史、平尾雄二
- 発表論文等 :
- 伊丹、平尾「哺乳動物の受精卵培養用培地、受精卵培養方法、および、受精卵培養用培地組成物」特開2025-068446(2023年10月16日)
- 伊丹、平尾(2025)伊藤記念財団令和6年度食肉に関する助成研究調査成果報告書43:174-179
- Itami N. and Hirao Y. (2025) J. Reprod. Dev. 71:55-61