サツマイモ基腐病菌の新しい検出・同定技術

要約

サツマイモ基腐病(基腐病)の病原菌を検出・同定する新たなリアルタイムPCR法である。本技術を用いることで、基腐病菌と同属近縁種を迅速かつ正確に区別して検出・同定でき、基腐病の高感度かつ高精度な診断を可能にする。迅速な確定診断により同病の被害の拡大阻止に貢献する。

  • キーワード:サツマイモ基腐病、サツマイモ乾腐病、PCR、病害診断、検出・同定
  • 担当:植物防疫研究部門・基盤防除技術研究領域・高リスク病害虫対策グループ、九州沖縄農業研究センター・暖地畑作物野菜研究領域・畑作物・野菜栽培グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

基腐病は、かんしょが病原菌に感染すると基部の黒変症状、葉の紫・黄化症状などを呈し、症状が進行すると枯死や土中で塊根の腐敗を引き起こし、産地に深刻な被害をもたらす。罹病残渣が感染源となることから連作により発生圃場での被害が激化するほか、感染した種苗の移動により発生域の更なる拡大が懸念されている。また、本病はサツマイモ乾腐病(乾腐病)と類似した症状を呈する。本病は、2018年に国内で初めて発生が確認され、2021年12月までに24都道県で発生が確認されており、迅速な初動対応を可能にする新たな診断体制の確立が求められている。本研究では、迅速かつ信頼性の高い診断を可能とする検出・同定技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本診断技術では、PCR法を用いて基腐病菌(Diaporthe destruens)と乾腐病菌(D. batatas)を特異的に検出・同定するために、新たなDNAプライマーセットを用いる。これは、両菌のrRNA遺伝子のITS1領域およびITS2領域の塩基配列から設計した (表1)。
  • 新たなDNAプライマーを用いたリアルタイムPCRにより、両菌を高感度(DNA濃度で0.0005 ng/μl以上)に検出できる(図1A)。
  • 発生圃場では、乾腐病菌と基腐病菌が重複感染している例がみられるため、その状況を想定し両菌のDNAの濃度比を変えて混合すると、片方のDNA濃度がもう一方のDNA濃度の1万分の1でも検出でき、重複感染していても感度が落ちない(図1A)。
  • 本技術は栽培現場の植物体(茎葉、塊根)の診断を主目的としており、実際には罹病植物より抽出した全DNAから基腐病菌を検出する必要がある。そこで、かんしょDNAと両菌のDNAの濃度比を変えて混合すると、菌のDNA濃度がかんしょDNA濃度の1万分の1でも同様に検出できることから、罹病植物体を高精度に診断できる(図1B)。
  • 本技術を用いた診断の流れは図2のようになる。実際に基腐病の疑義症状を呈した植物体試料(塊根および茎葉)を用いた確定診断により、これまで16都道県において初発生確認が報告されている(表2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:公設試験場、民間の検査会社等
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:国内のかんしょ作付総面積35,700ha(令和元年度農林水産統計資料より)、総収穫量79万6,500tのかんしょ生産市場

具体的データ

表1 DNAプライマーの塩基配列,図1 リアルタイムPCRによる高感度検出,図2 新技術によるサツマイモ基腐菌の検出・同定の作業工程,表2 本技術を用いてサツマイモ基腐病の初発生が確認された都道県

その他

  • 予算区分:交付金、生物系特定産業技術研究支援センター(イノベーション創出強化研究推進事業01020C)
  • 研究期間:2019~2020年度
  • 研究担当者:藤原和樹、井上博喜、小林有紀、小林晃、岡田吉弘、宮坂篤、西八束(鹿児島県農開総セ)、西岡一也(鹿児島県農開総セ)、櫛間義幸(宮崎県総農試)、臼井真奈美(宮崎県総農試)、河野伸二(沖縄県農研セ)
  • 発表論文等: