ジャガイモ黒あし病の発生を防ぐための種ばれいしょ工程管理

要約

これまでの研究成果から明らかとなったれいばしょ栽培工程や貯蔵工程におけるジャガイモ黒あし病の感染経路について、種ばれいしょ生産現場に周知するとともに、感染経路を遮断するための工程管理や管理手段を種ばれいしょ生産現場に実装・技術移転する。

  • キーワード:細菌病害、PectobacteriumDickeya、種イモ伝染性
  • 担当:植物防疫研究部門・基盤防除技術研究領域・越境性・高リスク病害虫対策グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

栄養繁殖性作物であるばれいしょは種苗伝染性病害の発生を防ぐため、健全な種ばれいしょ生産が不可欠である。わが国では植物防疫法等に基づく管理の下、複数年にわたる種ばれいしょの増殖・生産が行われている。しかしながら、近年、塊茎腐敗や地上部の萎れ、株元の黒変腐敗を引き起こすジャガイモ黒あし病(黒あし病)の発生が種ばれいしょ生産現場で大きな問題となっている。特に、平成26、29、30年は種ばれいしょ生産の基盤を担う原原種生産ほ場で黒あし病が大規模に発生し、一部の品種の種ばれいしょ供給が止まり、わが国のばれいしょ生産の根幹をゆるがす事態が起きている。そこで、病原菌種の解明や黒あし病の発生生態、感染経路を明らかにするとともに、感染経路遮断に有効な技術を確立し、種苗生産現場へと普及する。

成果の内容・特徴

  • 国内で発生が確認されている黒あし病菌(Dickeya属2種、Pectobacterium属3種)は、植物や土壌、水等からの増菌と菌種特異的プライマーを使用するPCR法を組み合わせることで検出可能である(2020年度普及成果情報)。
  • 黒あし病は種イモ伝染以外にほ場やほ場の周辺環境における雑草や野良いも、水環境などに存在する病原菌が原因となる感染経路が存在する。新たな黒あし病菌の感染経路を図1に示す。
  • ばれいしょの栽培から貯蔵までの工程について、食品安全管理手法の1つであるHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)の概念に基づき、各工程で発生する恐れのある感染リスクの分析を行い、特に注意して管理すべき工程とその対策を決定する。栽培工程と貯蔵工程における黒あし病感染リスク要因と黒あし病を発生させないために行う管理法についてまとめている(表1)。
  • ばれいしょ栽培工程や貯蔵工程において、黒あし病の発生に影響を及ぼす作業工程を見直し、黒あし病の発生を抑制するための管理手段を原原種生産を担う種苗管理センターや原採種生産団体であるホクレン農業協同組合連合会、十勝農業協同組合連合会等へと普及・技術移転する(図2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:行政機関、普及指導機関、種ばれいしょ生産団体、生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:北海道の種ばれいしょ生産地域(原原種生産 約800ha、原採種生産 約5,000ha)
  • その他:2021年度の北海道農業試験会議において指導参考成果として採択されており、北海道と対象地域の農協に普及見込みである。
  • 原原種生産現場(約800ha)において、管理手法の一部はすでに実証中である。

具体的データ

図1 黒あし病の感染経路(左: 栽培中の感染経路、右: 貯蔵工程中の感染経路),表1 各工程における黒あし病の感染リスクとその管理手段(一部を抜粋),図2 原原種生産現場における黒あし病の発生を抑制するための栽培工程管理に基づく排水改良(A:暗渠設置と明B:明渠掘削)と収穫塊茎の強制乾燥(C)の実証風景

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業27005C)、競争的資金(イノベ創出強化30037C、01022C)
  • 研究期間:2015~2021年度
  • 研究担当者:藤本岳人、浅野賢治、中山尊登、大木建広、赤井浩太郎、眞岡哲夫、青野桂之、大石優、Habaragamuwa Harshana、安岡眞二(道総研道南農試)、白井佳代(道総研十勝農試)、柴田浩之(十勝農協連)、小澤崇洋(十勝農協連)
  • 発表論文等:
    • Fujimoto T et al. (2021) Plant Dis. 105: 2236
    • Fujimoto T et al. (2021) Plant Dis. 105: 2238
    • Fujimoto T. et al.(2020)J. Gen. Plant Pathol. 86:423-427
    • Fujimoto T. et al. (2018) J. Gen. Plant Pathol. 84:124-136