ナシ葉退緑斑点随伴ウイルスおよびニセナシサビダニの検出法
要約
ニホンナシ、セイヨウナシの退緑斑点症状の発症に関与すると考えられるナシ葉退緑斑点随伴ウイルス(PCLSaV)、およびその推定媒介虫であるニセナシサビダニの検出法であり、RT-PCR法またはRT-LAMP法により、両者を特異的に検出できる。
- キーワード:pear chlorotic leaf spot-associated virus、ニセナシサビダニ、RT-PCR、RT-LAMP
- 担当:植物防疫研究部門・基盤防除技術研究領域・越境性・高リスク病害虫対策グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
近年全国のニホンナシおよびセイヨウナシの葉で見られる退緑斑点症状の発症には、エマラウイルスの一種であるナシ葉退緑斑点随伴ウイルス(pear chlorotic leaf spot-associated virus, PCLSaV)が関与することが強く示唆されているが、発症樹の診断や抵抗性検定等に必要なPCLSaVの検出法は開発されていない。また、PCLSaVの推定媒介虫であるニセナシサビダニ(以下ニセナシ)は、極めて微小であるため、発見や同定が容易ではなく、発生実態の解明や、穂木等での不在の確認が困難である。
そこで、本研究では、PCLSaVおよびニセナシの遺伝子の塩基配列に基づいて新たに設計したプライマーにより、reverse transcription-polymerase chain reaction(RT-PCR)法、または(RT-)loop-mediated isothermal amplification(LAMP)法を用いて、ナシ葉およびニセナシからのPCLSaVの検出法、およびニセナシ自体の検出法を開発する。
成果の内容・特徴
- PCLSaVのRT-PCR法による検出法では、ナシ葉から抽出したRNAを鋳型として、PCLSaV特異的プライマー(表1)を用いたRT-PCR法を行う(図1左)。RT-リアルタイムPCR(RT-qPCR)を用いた検出も可能である(表1、図1右)。
- PCLSaVのRT-LAMP法による検出法では、ナシ葉から抽出したRNAを鋳型として、6種のPCLSaV特異的プライマー(表1)を用いたRT-LAMP反応により、増幅産物を検出する(図2左)。
- PCLSaVを保毒したニセナシ1個体からのPCLSaVの検出も可能である(図2右)。RT-LAMPまたはRT-PCRの反応液にニセナシ1頭を投入すればよく、核酸抽出は不要である。反応液を入れたチューブの蓋内面にスティックのりを付け、実体顕微鏡下で、注射針の先端を用いてニセナシ個体を付着させ、潰して、ボルテックス等で反応液に入れてから用いる。
- ニセナシ特異的プライマー(表1)を用いたRT-qPCR法またはLAMP法により、ニセナシの検出が可能であり(図3左および右)、反応液組成および温度条件はPCLSaVの検出と同様でよい。
成果の活用面・留意点
- 退緑斑点症状発生ナシ圃場等におけるPCLSaVおよびニセナシの検出・診断に利用できる。PCLSaVの検出は中国の分離株にも適用可能と考えられる。
- 反応液の組成等は、農研機構(編)(2020)オオバのシソサビダニおよびシソモザイク病防除マニュアル(全国共通版)第3版*、および使用する試薬のマニュアル等を参照する。
(*https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/080862.html)
- ナシ葉からのPCLSaVの検出法では、RT-(q)PCR法、RT-LAMP法とも、葉の退緑斑点症状を呈する部位をサンプルとする。発症葉でも非発症部位からは検出されない。RT-LAMP法によるPCLSaVの検出法では、ナシ葉からの抽出RNAを用いるほか、より簡便な方法として、ナシ葉の退緑斑点部位を注射針の先端でつつき、LAMP反応液に浸すことでも、検出が可能である。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2017~2020年度
- 研究担当者:久保田健嗣、千秋祐也、栁澤広宣、竹山さわな、土`田聡、鈴木良地(愛知農総試)、神山光子(熊本農研セ果樹研)、上遠野冨士夫(法政大)
- 発表論文等:
- Kubota K. et al. (2021) Plant Dis. 105:1234
- 久保田ら「RT-PCR法による植物ウイルスの検出法及び検出用キット」特許7587826(2024年11月13日)
- 鈴木ら「RT-LAMP法による植物ウイルスの検出法及び検出用キット」特開2021-137003(2021年9月16日)