紋々病のキク葉から見出される新規エマラウイルス

要約

キクに大きな被害をもたらしたウイルス様症状を示す「紋々病」は、フシダニの一種キクモンサビダニの吸汁害とされてきたが、本研究によりキクから新種のエマラウイルスが見出され、紋々病葉に特異的に検出されることから、本病の病原である可能性がある。

  • キーワード:キクモザイク随伴ウイルス、chrysanthemum mosaic-associated virus、検出、エマラウイルス、キクモンサビダニ
  • 担当:植物防疫研究部門・基盤防除技術研究領域・越境性・高リスク病害虫対策グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

キクの紋々病は、葉にモザイクや輪紋症状が生じる障害であり、1970年代に全国で大発生した。その原因は、キクに寄生するキクモンサビダニによる吸汁害によるものと考えられている。しかし近年、シソモザイクウイルス等、フシダニ類媒介性の植物ウイルスであるエマラウイルス(Emaravirus)の新種が相次いで報告されている。そこで本研究では、紋々病について、次世代シーケンス等の新たな技術を用いて植物ウイルスの関与を再検討し、見出されたウイルスの分類学的性質を解明するとともに、検出法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 紋々病のキク葉(図1)から抽出したRNAの次世代シーケンスにより、エマラウイルスの分節RNAに共通性を有する1本鎖(マイナス)RNAが7種検出される(図2)。 本ウイルスはchrysanthemum mosaic-associated virus (ChMaV)(和名:キクモザイク随伴ウイルス)と命名されている。
  • エマラウイルスが共通して保有するタンパク質P1~P4の分子系統樹解析において、ChMaVは、日本および中国から見出されたナシ葉退緑斑点随伴ウイルス(PCLSaV)と最も近縁である。さらにP3、P4の系統樹においては、東アジアに由来するツバキ、シソ、シキミ、およびニュージーランドのカラカから見出されたエマラウイルス(それぞれCjaEV1とCjaEV2、 PerMV、 JSARaV、およびKOPV)と同一グループ(サブグループ)を形成する(図3、 結果省略)。
  • ChMaV特異的プライマー(表1)を用いたRT-PCR法により、ChMaVのいずれの分節RNAも、健全キク葉からは検出されないのに対して、紋々病葉からは全ての分節が検出される(結果省略)。

成果の活用面・留意点

  • ChMaV特異的プライマーは、紋々病発生圃場等でのキクの発病やウイルスの発生状況調査等に活用できる。
  • ChMaVの病原性、全身感染性、伝染性、宿主範囲や伝染環、キクモンサビダニによる媒介性等については不明であり、今後の解明が必要である。

具体的データ

図1 (左)紋々病のキク葉(品種:金錦)。(右)キクの新芽に寄生するキクモンサビダニ(矢印)。,図2 キクモザイク随伴ウイルス(ChMaV)のゲノム構造,図3 キクモザイク随伴ウイルス(ChMaV)と他のエマラウイルス種の類縁関係,表1 ChMaVの各分節を検出するプライマー配列

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2018~2020年度
  • 研究担当者:久保田健嗣、栁澤広宣、千秋祐也、山﨑淳紀(高知農技セ)、堀川英則(愛知農総試)、恒川健太(愛知農総試)、森田泰彰(高知農技セ)、下元祥史(高知農技セ)、上遠野冨士夫(法政大)
  • 発表論文等: