全ゲノム解析による雑草イネの由来・多様性。近代品種は雑草イネの発生源ではない。

要約

雑草イネは主食用米や飼料用米、栽培赤米、海外の雑草イネとは由来の異なるイネであり、国内で発生する雑草イネの多くは背高型、擬態型の2タイプに大別できる。両タイプともに多様性が著しく低いことから、同一タイプであれば同じ生理生態的特性を持つと判断できる。

  • キーワード:水稲移植栽培、水稲直播栽培、雑草イネ、種内変異、雑草防除の標準化
  • 担当:植物防疫研究部門・雑草防除研究領域・雑草防除グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、水稲移植栽培、直播栽培ともに雑草イネが問題化し、北海道・沖縄を除く国内全域で発生が確認されている。雑草イネの多くは玄米色が赤く、水稲収穫物への赤米混入被害が報告されている。特に直播栽培では雑草イネ防除が難しくまん延しやすいことから、生産現場では直播栽培を継続すると漏生したイネが雑草化すると判断する事例が報告されており、直播栽培普及の阻害要因となっている。また、赤米品種や飼料用米の栽培と雑草イネの発生を関連付けるなど、雑草イネの由来が未解明なことが品種や栽培方法の選択に混乱をもたらしている。
そこで本研究では、国内で発生する雑草イネの由来を明らかにするため、雑草イネや栽培品種、海外で発生する雑草イネの類縁関係を全ゲノム多様性解析にもとづき解明する。

成果の内容・特徴

  • 国内で発生する雑草イネの多くは温帯ジャポニカ由来であり、2タイプに大別できる(図1、図2)。両タイプとも近代品種や在来品種との類縁関係は小さく国内における雑草イネの発生源ではない。そのため、漏生イネが雑草化した可能性は否定でき、直播栽培の継続が雑草イネ発生の直接的な原因ではない。同様に、赤米品種や飼料用米の栽培が雑草イネの発生源とはならない。また、海外の雑草イネとの類縁関係も小さく、海外からの侵入による発生ではない。
  • 全ゲノム解析にもとづき大別した2タイプの雑草イネは、それぞれが持つ草丈や外頴・内穎の色などの形態的特徴から背高型、擬態型とする(図3)。擬態型は遺伝的類縁関係にもとづき2つのサブタイプに分けられ(図2)、ふ先色の有無と一致する(図3)。
  • 背高型・擬態型ともに、タイプ内・サブタイプ内の近縁係数が0.85程度と高い値を示し、タイプ内・サブタイプ内の多様性が著しく低い(図4)。このことから、異なる地域で発生する雑草イネであっても、同一タイプであれば同じ生理生態的特性を持つと判断できる。
  • 背高型、擬態型とは異なる雑草イネも一部地域で発生しており、いずれも熱帯ジャポニカ由来の雑草イネである(図1)。この雑草イネについても近代品種との類縁関係は小さい。

成果の活用面・留意点

  • 雑草イネ根絶後に直播栽培の再導入を促すための基礎資料となる。
  • 雑草イネのタイプ分けにもとづき防除体系を開発することで、異なる発生地域で開発した技術の共有が可能になり、雑草イネ防除体系の標準化が期待できる。
  • 背高型は東北~九州地方、擬態型は東北・甲信地方、熱帯ジャポニカ由来の雑草イネは関東地方で発生が確認されている。
  • 直播栽培における雑草イネ防除は、現状では安定性に課題のある防除体系になる。雑草イネが発生する圃場では一旦直播栽培をやめ、雑草イネを根絶するため移植栽培や畑作物への転換を検討する。

具体的データ

図1 雑草イネと栽培品種・海外の雑草イネの系統関係,図2 温帯ジャポニカの雑草イネ、栽培イネの類縁関係,図3 背高型および擬態型雑草イネの形態的特徴,図4 温帯ジャポニカの雑草イネおよび栽培イネにおける各系統間の近縁係数

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(革新的技術開発・緊急展開事業:先導プロジェクト、戦略的プロジェクト研究推進事業:直播栽培拡大のための雑草イネ等難防除雑草の省力的防除技術の開発)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:今泉智通、江花薫子、川原善浩、武藤千秋、小林浩幸、小荒井晃、Kenneth M. Olsen(セントルイス・ワシントン大)
  • 発表論文等: 1) Imaizumi T. et al. (2021) Commun. Biol. 4:952
    doi: 10.1038/s42003-021-02484-5