順序尺度データと推移行列モデルを利用した難防除雑草カラスムギの発生予測と管理効果の評価

要約

ムギ作難防除雑草カラスムギについて、過去に蓄積された順序尺度による発生記録と、順序ロジット回帰を用いた推移行列モデルを利用することで、IWMに関連する農地管理の雑草抑制効果を評価・予測する。管理条件の効果を相対的・長期的に予測し、管理の最適化に有用な情報を示す。

  • キーワード:総合的雑草管理(IWM)、推移行列モデル、順序尺度、リスク評価、カラスムギ(Avena fatua L.)
  • 担当:植物防疫研究部門・雑草防除研究領域・雑草防除グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

カラスムギは、世界的なムギ作難防除雑草であり、国際的に総合的雑草管理(IWM)の推進が求められている。そこで本研究では、本種の各圃場における発生状況を「小・中・大」といった順序尺度で表現したデータを利用して推移行列モデルを構築することで、本種のIWMに関連する管理手法の効果を相対的・長期的に評価し、管理の最適化・意思決定に有用な情報を提示する。

成果の内容・特徴

  • カラスムギは、国外においては除草剤抵抗性の獲得が広く報告され、国内のムギ作においては有効な生育期除草剤は現段階では登録がなく、IWMが国内外で求められている。茨城県のカラスムギ蔓延地域において、農地41地点を対象として約10年に及び行われた過去の観測データを用いて予測モデルを構築する。観測では、農地におけるカラスムギの発生度が「無・小・中・大」の4段階の順序尺度として表現されている(図1)。「農地の利用状態(コムギ作・オオムギ作・野菜作等・水稲作・休耕)」、「夏期湛水(夏作水稲)の有無」、「播種時期調整(遅播き)の有無」といった管理の効果及び「ムギ生育期の気温」を考慮したカラスムギ発生度の推移行列モデルを順序ロジット回帰により推定する(図2)。
  • 「農地の利用状態」のうち、「野菜作」「水稲作」「休耕(春に管理有)」といった本種の種子生産を完全に妨げる農地管理は、たとえ前年の発生度が高くとも急速に抑制し、発生無へと推移させる(図3)。コムギ作・オオムギ作におけるカラスムギ発生リスクは同程度に高いが、「夏期湛水」にした場合は、コムギ作条件下においてもカラスムギの発生は抑えられる(図3)。「播種時期調整」と「気温」は、カラスムギの抑制効果は相対的に小さい。
  • 管理の継続の効果を予測すると、早くて1年、遅くとも3年以内に顕著な効果が出ることが明らかとなる(図4)。カラスムギ蔓延地域において、ムギ連作は高リスクであるが、前年の夏に湛水条件(夏作水稲)にすることによりリスクは大幅に低減する(図4)。単年の作目変更・休耕も抑制効果が高い(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で示した推移確率(図3、図4中の数値)は、本研究で使用した茨城県南部のカラスムギ蔓延地域のデータから得られた結果である。
  • 雑草の発生状況を順序尺度で表現する調査手法はこれまで広く用いられてきた。しかし、国内ではその調査結果は主に現状把握や分類といった利用に留まっていた。本研究では、統計的手法を用いることにより、予測や評価という新たな活用法を提示している。「順序尺度による時系列データ」は、雑草管理のみならず様々な分野で取得されているため、本研究の解析手法は、雑草管理以外の場面でも活用できる可能性がある。

具体的データ

図1 順序で表現されたカラスムギ発生度,図2 推移行列モデル,図3 各管理条件下におけるカラスムギ発生度の推移,図4 管理を繰り返したときのカラスムギ発生度の推移確率の時間的変化

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(農業被害をもたらす侵略的外来種の管理技術の開発)、文部科学省(科研費 19K20493)
  • 研究期間:2019~2021年度
  • 研究担当者:松橋彩衣子、浅井元朗、深澤圭太(国立環境研究所)
  • 発表論文等: