超音波でヤガ類の飛来を防ぐ害虫防除法

要約

蛾類の嫌がる超音波をほ場周囲に広く照射することで、ヤガ類による産卵のための農作物への飛来を阻害可能である。その結果、ほ場内におけるヤガ類の産卵数と幼虫数が減少し、ヤガ類の幼虫を防除するために施用する殺虫剤の散布回数を大幅に削減できる。

  • キーワード : 物理的防除、害虫管理、コウモリ、チョウ目害虫
  • 担当 : 植物防疫研究部門・基盤防除技術研究領域・海外飛来性害虫・先端防除技術グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

害虫による農作物の被害を抑える手法として、レ―ザーを含む光や音、振動などを用いた物理的な技術に注目が集まりつつある。耳のある蛾類は、捕食者であるコウモリの発する超音波を忌避することから、超音波をヤガ類などの防除に役立てようとする試みは古くからなされている。しかしながら、既存のスピーカ等を用いてほ場全体を超音波でカバーするには多数のスピーカを設置する必要があり、実用化には至っていない。そこで本研究では、交尾を終えたメスの蛾の飛来を効率的に防ぐことを目的に、忌避効果の高い超音波の時間パラメータを特定し、これを広い面積に照射可能な超音波発信装置を用いた防除技術の確立を目指す。

成果の内容・特徴

  • 耳を持つ重要な農業害虫であるハスモンヨトウ(図1)、シロイチモジヨトウ、ツマジロクサヨトウの飛翔行動を高い割合で阻害する超音波の時間パラメータは、パルス長が5ミリ秒、1秒あたりのパルス数(反復率)が10前後となる超音波(以降、忌避超音波と表記)である(図2)。
  • 開発した超音波発信装置は、忌避超音波を水平方向360度、上下方向20度に照射可能である(図3)。有効範囲は半径が25m程度の円となり、2,500m2(50m×50m)のほ場であれば、スピーカの設置台数は最少4台となる。
  • イチゴの栽培施設(土耕促成栽培)のパイプ資材に吊り下げた超音波スピーカから忌避超音波を照射することで(図3左下)、ハスモンヨトウの卵塊数(調査日数あたりの総卵塊数)を、無照射条件と比べ、94%以上、減らせることができる(図4左)。これにより、ハスモンヨトウに対して施用する殺虫剤の散布回数を4回から1回へと削減(75%減)できる。
  • 葉ネギの露地ほ場の四隅に設置した超音波スピーカから忌避超音波を照射することで(図3右下)、シロイチモジヨトウの幼虫数・被害株数(調査株数あたりの総幼虫数・総被害株数)を、無照射条件と比べ、それぞれ90%以上、減らせることができる(図4右)。これにより、シロイチモジヨトウに対して施用する殺虫剤の散布回数を9回から1回へと削減(89%減)できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : イチゴ・ネギ等の生産者、普及指導機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 2020年以降の総導入件数は34件(レンタル)。
  • その他 : 株式会社メムス・コアより受注販売も可能
    (問い合わせ先 : https://www.mems-core.com/about/inquiry.html)。

具体的データ

図1 ハスモンヨトウの耳,図2 ハスモンヨトウとシロイチモジヨトウの飛翔を阻害する超音波パルスの時間パラメータ,図3 超音波発信装置の本体(左上)とスピーカ(左下)、イチゴ栽培施設(右上:矢印部)とネギ露地ほ場(右下)でのスピーカの設置例,図4 忌避超音波を照射したイチゴ栽培施設におけるハスモンヨトウの卵塊数

その他

  • 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間 : 2016~2020年度
  • 研究担当者 : 中野亮、伊藤彰夫(株式会社メムス・コア)、德丸晋虫(京都府農林水産技術センター)
  • 発表論文等 :
    • Nakano R. et al. (2022) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 119:e2211007119.
      doi: 10.1073/pnas.2211007119
    • 松尾、中野「果菜類栽培施設へのチョウ目害虫の飛翔行動を合成超音波により阻害する方法」特許第6644299号(2019年3月22日)