テンサイシストセンチュウ対策として輪作に使用可能な作物

要約

テンサイシストセンチュウの接種試験により判明した非宿主はレタス、トウモロコシ、ズッキーニ、セルリー、パセリ、クローバー、ハゼリソウである。また、緑肥作物の葉ダイコン1品種はテンサイシストセンチュウが寄生せず、土壌中の密度を下げるため捕獲作物として利用できる。

  • キーワード : テンサイシストセンチュウ、非宿主作物、捕獲作物、葉ダイコン、密度低減
  • 担当 : 植物防疫研究部門・基盤防除技術研究領域・越境性・高リスク病害虫対策グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

アブラナ科やヒユ科作物の重要害虫として海外で発生しているテンサイシストセンチュウ(Heterodera schachtii Schmidt, 1871, 以下 Hs)が、日本で初めて長野県原村で2017年に発見され、現地では土壌くん蒸剤処理による緊急防除が行われている。Hsのシスト(雌成虫)は土壌中で5年以上生存するため、その再発を防ぎつつ、営農を再開するためには、輪作体系の構築が重要である。そのため、非宿主の作物品目種類の解明や、抵抗性品種の探索を行う必要がある。また、土壌中の卵のふ化を促して幼虫を根に誘引し、その後のシストへの発育を阻害して土壌中の密度を低減する捕獲作物の品目も探索する。

成果の内容・特徴

  • 長野県原村で栽培されている、もしくは栽培可能な作物の品目を主とした苗を供試し、Hs幼虫を接種する試験を行った結果、供試したセルリー、パセリ、レタス、トウモロコシ、緑肥作物であるクローバー及び景観作物であるハゼリソウの供試品種ではシストが全く出現せず、これらの作物は非宿主と判定される(図1に試験結果の一部を例示)。これら非宿主作物は輪作に使用可能と判断できる。
  • ハクサイ、ブロッコリー、キャベツ、カリフラワー、食用ダイコン、ホウレンソウ、テンサイ、トマト、フダンソウ、ソバについて同様の試験を行ったところ、いずれでも根系にシストが出現し宿主と判定され、シストの出現が皆無の抵抗性品種は見つからない。
  • Hsやアブラナ科根こぶ病菌に対する捕獲作物として海外で知られている品種など、アブラナ科の3品目5品種の緑肥作物にHsの幼虫を接種する試験を行った。その結果、シストの出現数は品目や品種間で異なるが、シロガラシと葉ダイコンでは出現数が少なく、捕獲作物の候補と考えられる(図2)。このうち、シストが全く出現しない葉ダイコン品種C(「コブ減り大根」(タキイ種苗)、図3)について、土壌中のHs卵密度への低減効果を調べた結果、初期密度を7割減らす(図4)。また、この品種の根浸出液がHs卵に対しふ化促進効果を持つことが確認されている。従ってこの品種は、密度低減効果を持つ捕獲作物として輪作に利用可能と判断できる。

成果の活用面・留意点

  • 非宿主と判定された品目や品種はHsを増殖させず輪作に利用できるが、密度低減効果は一般に小さいと考えられる。
  • 供試品目及び品種の詳細な結果は、発表論文の2)に記載されている。
  • 本研究では葉ダイコンによる密度低減効果をポット試験で解明したが、圃場栽培における効果は、土壌理化学性などの条件によって影響を受ける可能性がある。
  • 本成果により農林水産省令が改正され、Hs防除区域における作付禁止作物にトマトと食用ダイコンが追加された(平成31年2月28日及び令和3年6月28日付け官報)。
  • 長野県原村のセルリーは夏期に全国生産の9割を占める主力品目であるが、Hsの宿主とする文献もあった。しかし本成果によって非宿主と判定され、栽培継続が可能になった。

具体的データ

図1 非宿主探索のための接種試験の結果の例,図1 非宿主探索のための接種試験の結果の例,図3 「コブ減り大根」(左)とその栽培の様子,図4 葉ダイコンの密度低減効果を調べる試験の結果

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(レギュラトリーサイエンス研究委託事業:テンサイシストセンチュウの防除対策の効果検証と調査手法の改良、イノベーション創出強化研究推進事業)、その他外部資金(農食事業)
  • 研究期間 : 2017~2021年度
  • 研究担当者 : 岡田浩明、植原健人、立石靖、酒井啓充、与謝野舜、北林聡(長野県野菜花き試験場)
  • 発表論文等 :
    • Okada et al. (2020) Nematol. Res. 50:35-38
    • Okada et al. (2021) Nematol. Res. 51:11-18
    • 植原ら(2021)日本線虫学会誌、51:1-4