アルパカVHH抗体ライブラリーから選抜された抗ウリ類退緑黄化ウイルス抗体の反応性

要約

アルパカのVHH抗体ライブラリーから選抜されたウリ類退緑黄化ウイルス(CCYV)の外被タンパク質に結合性を示すVHH抗体は、ドットブロット法等においてCCYVを感染葉特異的に検出できる。本特異的抗体は動物への免疫なしに迅速に作製することができる。

  • キーワード : cucurbit chlorotic yellows virus (CCYV), variable domain of heavy chain of heavy-chain antibody (VHH), アルパカ, ライブラリー
  • 担当 : 植物防疫研究部門・基盤防除技術研究領域・越境性・高リスク病害虫対策グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

植物ウイルスの診断はRT-PCR法やDAS-ELISA法のように施設と機器を要するものが多いが、現場では、発生圃場で迅速に診断できる手法が求められている。イムノクロマト法はそのようなニーズに応える手法であるが、その作製に必要なウイルス特異的抗体は、ウサギ等哺乳動物への免疫と採血や臓器の摘出が必要であり、作製に費用、時間と技術を要する。一方、アルパカ等ラクダ科動物が有する重鎖抗体は、一般的な抗体と異なり2本の重鎖のみからなり(図1)、重鎖抗体の可変領域(VHH)だけでも機能し、微生物を用いた大量かつ安価な生産が可能で、医薬等の開発も進められている。また、VHH抗体ライブラリーを事前に用意しておくことで、アルパカ等への免疫を経ずに、特定の抗原に結合性を示すVHH抗体クローンを選抜することが可能とされる。そこで本研究では、アルパカ由来VHH抗体ファージディスプレイライブラリーを用いて、キュウリ等で問題となり、現場での診断ニーズが高いウリ類退緑黄化ウイルス(CCYV)を対象に、特異的抗体の作製を試みる。

成果の内容・特徴

  • アルパカ由来VHH抗体のファージディスプレイライブラリーから、大腸菌で発現させたウリ類退緑黄化ウイルス(CCYV)の外被タンパク質(CP)に結合性を示すクローンをスクリーニングすることにより、1クローンを選抜している(図2)。
  • 選抜されたVHH抗体の抗原認識部位を、マウス免疫グロブリン(Ig)GのFc領域に結合した融合タンパク質をヒト由来培養細胞HEK293Tで発現させ、当該タンパク質を含む培養液の遠心上清を抗体液として用いた(図1D)。CCYV感染ミナトアカザ葉をサンプルとしたウェスタンブロットにおいて、既報のウサギ抗CCYV抗血清と同様の特異的反応性を示す(図3A)。
  • キュウリ感染葉のティッシューブロットにおいて、CCYVと近縁で、感染植物の症状では見分けが困難なクリニウイルスであるビートシュードイエロースウイルス(BPYV)には反応せず、CCYV特異的な反応性を示す(図3B)。
  • キュウリおよびメロン葉サンプルのドットブロットにおいて、CCYV感染葉を特異的に検出できる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • VHH抗体ライブラリーから植物ウイルスに対して特異的反応性を示す抗体が得られた国内初の事例である。通常の抗血清より迅速に抗体を得ることが可能であり、突発的に発生・蔓延した植物病原体等、診断の急を要する病原体に対する抗体の作製に適していると考えられる。また、動物への免疫と採血等を経ないため、動物愛護の観点からも望ましい。
  • CCYVを検出できる抗体が得られることは示されたものの、一連の反応性評価試験で用いた抗体はマウスIgGとの融合タンパク質であり、VHH単体での反応性の評価、および大量生産等の課題は残されている。

具体的データ

図1 通常抗体とラクダ科重鎖抗体の構造の比較,図1 通常抗体とラクダ科重鎖抗体の構造の比較,図3 ウェスタンブロットおよびティッシューブロットによるウリ類退緑黄化ウイルスの検出,図4 ドットブロットによるキュウリおよびメロンからのウリ類退緑黄化ウイルスの検出

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2017~2022年度
  • 研究担当者 : 久保田健嗣、塚原成俊(イノベックスサイエンス株式会社)、鳥山君彦(イノベックスサイエンス株式会社)、星野啓祐(群馬農技セ)、池田健太郎(群馬農技セ)、酒井宏(群馬農技セ)
  • 発表論文等 :
    • Kubota K. et al. (2022) J. Gen. Plant Pathol. 88:300-308
    • 久保田、鳥山「ウリ類退緑黄化ウイルス検出用のVHH抗体と検出キット、及びこのVHH抗体を用いたウリ類退緑黄化ウイルス感染の検査方法」特許7281200(2023年5月17日登録)