紫外光と緑色光を併用した光源はミナミアオカメムシやアオクサカメムシの誘引に有効である

要約

緑色光は単独ではミナミアオカメムシやアオクサカメムシに誘引性を示さないが、紫外(UV)光と併用することで、これらカメムシ類に対する誘引性を増強する。一方、この混色光源はコガネムシ類に対する誘引性が弱いことから、非対象種の不要な捕獲を防ぐ点でも有効である。

  • キーワード : 走光性、ライトトラップ、LED、UV、ダイズ
  • 担当 : 植物防疫研究部門・作物病害虫防除研究領域・病害虫防除支援技術グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

ダイズや水稲の害虫であるミナミアオカメムシNezara viridulaやその近縁種であるアオクサカメムシNezara antennata(以下、カメムシ類)は正の走光性を示すことから、各県の病害虫防除所などに設置してある大型のライトトラップである予察灯による調査が有効である。予察灯の光源として、現在は主に白熱灯が使用されているが、省エネ対策などの観点から、LED光源への置き換わりが検討されている。しかし、カメムシ類の誘引に有効な波長組成が未解明なため、どのような波長のLEDを光源として使用すべきか不明である。一方、ミナミアオカメムシの複眼は紫外と緑色域の光に高い感度を示す(遠藤ら,2014)ことから、紫外と緑色の光が誘引に関与していることが考えられる。そこで、本研究では紫外と緑色の単色および混色の光源に対するカメムシ類の誘引性を、野外試験で評価することにより、誘引に有効な波長組成を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 紫外光は単独でもカメムシ類に誘引性を示すが、緑色光は光強度を変化させてもほとんど捕獲が認められない(図1)。
  • 紫外と緑色の光を組み合わせた光源のトラップ(図2)には、紫外単独を光源とするトラップに比べ、平均で3倍以上多くのカメムシ類が捕獲される(図3)。これらのことから、緑色光は単独では誘引性を示さないものの、紫外光と併用することで誘引力を増強する効果がある。
  • コガネムシ類3種の捕獲数は紫外単独光源で最も多く、紫外と緑色の混色光源への捕獲数は紫外単独の6割程度と、併用による誘引性の増加は認められず(図4)、誘引性は紫外光の光強度に依存していると考えられる。混色光源に対する誘引性はカメムシ類とコガネムシ類で大きく異なり、誘引に有効な波長組成は昆虫種により異なる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果を活用することで、ミナミアオカメムシやアオクサカメムシを効率的に捕獲できる光源の作製が可能である。
  • ライトトラップに捕獲される昆虫種の大半はコガネムシ類であるが、混色光源はコガネムシ類に対する誘引効果が弱いことから、非対象種の捕獲を防ぐという点で生態系への負荷低減にも寄与可能である。
  • 他の斑点米カメムシ類を含め、混色光源に対する昆虫種の誘引性についてはほとんど調べられていないため、本成果と同様の現象が、他の走光性を示す昆虫種でも認められる可能性がある。

具体的データ

図1 異なる光強度の緑色光に対するカメムシ類の誘引性,図1 異なる光強度の緑色光に対するカメムシ類の誘引性,図3 紫外と緑色の単色および混色の光源に対するカメムシ類の誘引性,図4 紫外と緑色の単色および混色の光源に対するコガネムシ類の誘引性

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(国産農産物の革新的低コスト実現プロジェクト)
  • 研究期間 : 2017~2021年度
  • 研究担当者 : 遠藤信幸、弘中満太郎(石川県立大)、本田善之(山口農林総セ)、岩本哲弥(山口農林総セ)
  • 発表論文等 : Endo N. et al. (2022) Sci. Rep. 12:12279
    doi:10.1038/s41598-022-16295-z