サツマイモ基腐病菌の胞子を大量形成できる寒天葉片法

要約

加熱処理したサツマイモ葉片を寒天培地に載せ、その葉上でサツマイモ基腐病菌を25°Cで約2週間培養すると、寒天培地単独の従来法よりも最大数百倍の大量の胞子形成が可能である。胞子の調製が容易になることで、防除研究や発生生態解明の進展に寄与できる。

  • キーワード : 寒天葉片法、サツマイモ葉、サツマイモ基腐病、胞子形成、Diaporthe destruens
  • 担当 : 植物防疫研究部門・作物病害虫防除研究領域・病害虫防除支援技術グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

サツマイモ基腐病は、病原性糸状菌Diaporthe destruens(以下、基腐病菌)によって引き起こされる重要土壌病害であり、茎やイモの褐変・枯死による甚大な被害が南九州・沖縄地域で多発している。全国各地への感染拡大も警戒され、効果的な防除技術の早急な開発・策定が求められている。
基腐病菌の胞子は柄子殻から放出されて、サツマイモへ感染するが、通常の培養法で十分量の胞子を得るには多数枚の寒天培地を用いなければならず、試験遂行に多大な労力を要する。そこで、本研究では加熱処理したサツマイモ葉片上で基腐病菌を培養することにより、簡便に大量の胞子を形成できる手法を考案し、防除技術等の研究開発の一助とする。

成果の内容・特徴

  • 加熱処理したサツマイモ葉片を寒天培地上に載せ、その葉上に基腐病菌の含菌寒天片を接種して培養する寒天葉片法(図1a)では、多数の柄子殻が形成され、そこから大量の胞子塊が水滴状に漏出される(図1b、c)。それに対して、培地単独で培養する従来法では、胞子はあまり形成されない(図1d)。
  • 寒天葉片法に用いる葉は、葉色が濃く、十分に展開して、虫食いや破れのないものを使用する。サツマイモ葉の加熱条件は、煮沸では10秒間から60秒間、オートクレーブでは121°Cで5分間から20分間である。培地は素寒天培地(濃度1.75 %)または0.5×ポテト―デキストロース寒天(PDA)培地が適しており、培養条件は25°Cで約2週間である。胞子形成を促すための近紫外光照射は不要である。葉片上に漏出した胞子塊を滅菌水で洗い流すことで、大量の胞子を回収できる(図1e、f)。
  • 本法では、培地単独で培養する従来法に比べて最大で数百倍の大量の胞子を形成させることが可能であり、基腐病菌の菌株が異なっても安定的に胞子を大量形成できる(図2a、b)。

成果の活用面・留意点

  • 本法により、基腐病菌の胞子を自然光下で効率良く大量に生産・回収することが可能になるため、菌数(菌密度)と発病との関係や植物体への感染機構の解明、化学農薬の胞子への影響評価などの様々な発病・防除研究、生態解明研究に活用できる。
  • 加熱処理した葉は長期保存できないため、冷蔵庫で保管し、1か月以内に使い切る。保管中に細菌が増殖した葉は組織が粘性を示すので用いない。
  • 本法は、胞子大量形成法として報告のあるサクラやアジサイの葉を用いた寒天葉片法(岸、1995)を応用したものである。サクラやアジサイの葉片を用いた場合では、基腐病菌の胞子はほとんど形成されない。サツマイモ以外のアサガオなどサツマイモ属植物の葉を用いても大量の胞子を形成できる。セロファンやろ紙などセルロースを主成分とするシート状基材を加熱処理した後に培地上で基腐病菌を培養することでも胞子が大量に形成されるが、胞子形成能はサツマイモ葉の方が高い。

具体的データ

図1 寒天葉片法による基腐病菌の胞子形成,図1 寒天葉片法による基腐病菌の胞子形成

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(戦略的スマート農業技術等の開発・改良)
  • 研究期間 : 2021~2022年度
  • 研究担当者 : 野見山孝司、関口博之、橋本秀一、佐藤恵利華、越智直、野口雅子、吉田重信
  • 発表論文等 : 野見山ら、特願(2022年10月4日)