要約
ナガエツルノゲイトウの除草剤防除技術として、水稲移植後にピラクロニルを含む除草剤を処理し、再生始~草丈5cmまたは草丈35cm以下にフロルピラウキシフェンベンジルを含む除草剤を処理することが有効である。2年間継続すると現地水田でも栄養繁殖する地下部まで防除できる。
- キーワード : 特定外来生物、移植水稲栽培、ピラクロニル、フロルピラウキシフェンベンジル、除草剤の体系処理
- 担当 : 植物防疫研究部門・雑草防除研究領域・雑草防除グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
ナガエツルノゲイトウは環境省の定める「特定外来生物」に指定されている南米原産の多年生雑草で、関東以西の河川、水路、水田などへ侵入・定着が確認されている。茎や根の栄養繁殖によって増殖、まん延し、生態系や農業上の悪影響を及ぼし、水田内へ侵入すると水稲の減収や収穫作業の阻害要因となる。まん延した水田では、代かきや移植の落水時に茎、根の断片が水路に流出し、水路を介して周辺に拡散する懸念がある。水稲作での雑草害と分布拡大を防ぐため、繁殖体の断片を生じさせない対策として除草剤による防除技術が求められている。そこで、本研究ではナガエツルノゲイトウがまん延した現地水田において移植水稲栽培期間中の除草剤の体系処理による防除技術を開発・実証する。
成果の内容・特徴
- 本技術は、水稲栽培で問題となる特定外来生物ナガエツルノゲイトウを、水稲移植後に本種に対する防除効果のある除草剤2~3剤を体系で処理することで防除する技術である(図1)。既存の除草剤処理体系から本体系に移行することで、生産者の追加的作業無しでほ場内のナガエツルノゲイトウの残草量を抑制できる。
- ナガエツルノゲイトウがまん延する千葉県の早期栽培地域の現地水田(面積5a、移植時期は5月上旬)で、水稲移植後にピラクロニル粒剤をナガエツルノゲイトウの再生始期(草丈2cm以下)、フロルピラウキシフェンベンジル・ペノキススラム・ベンゾビシクロン粒剤を移植約20日後(本種の再生始~草丈5cm)に処理する体系-1と、イマゾスルフロン・オキサジクロメホン・ピラクロニル・ブロモブチド粒剤を再生始期、フロルピラウキシフェンベンジル乳剤を移植約40日後(本種の草丈35cm以下)に処理する体系-2によって、自然発生するナガエツルノゲイトウの地上部乾物重は処理1年目で慣行区比4~8%に抑制される(図2、3)。さらに、これらの体系処理を2年間継続することで、繁殖器官である地下茎、根を検出されない程度まで防除できる。なお、これらの体系処理は水稲収量に影響を与えない。
- ピラクロニル、フロルピラウキシフェンベンジルを含む除草剤3剤の体系処理(体系-3)は、神奈川県の普通期栽培地域の現地水田(面積12a、移植時期は6月上旬)でも自然発生するナガエツルノゲイトウに高い防除効果がある(図4)。
- 本防除技術による防除コストは、3剤の体系処理では慣行と比較して約50%高価だが、2剤の体系処理では同等またはやや安価である(図1)。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 普及指導機関の職員、JAの営農指導員、水稲生産者。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : ナガエツルノゲイトウの侵入が確認されている関東以西の水田。
- その他 : 本成果の内容の詳細を取りまとめた「水田におけるナガエツルノゲイトウ防除マニュアル」をインターネット上で公開している。
本成果は、水流や作業機械を介した侵入や畦畔などほ場周辺部からの新規の侵入が無い温暖地の水稲単作地域の水田で実施した試験結果をもとにしている。また、連年施用による地下部の防除効果は温暖地の早期栽培地域の水田でのみ確認している。
本防除技術は、使用する除草剤によってナガエツルノゲイトウに有効な処理時期や本種以外の雑草に対する防除効果が異なるため、これらの除草剤体系処理は本種の生育や本種以外の雑草の発生状況を考慮して使い分ける。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(戦略的プロジェクト研究推進事業:農業被害をもたらす侵略的外来種の管理技術の開発)
- 研究期間 : 2019~2023年度
- 研究担当者 : 井原希、嶺田拓也、吉村泰幸、松橋彩衣子、植田夏実、芝池博幸、小荒井晃、草川知行(千葉農林総研)、太田和也(千葉農林総研)、鈴木聡史(千葉農林総研)、望月篤(千葉農林総研)、中村充明(千葉農林総研)、藤代淳(千葉農林総研)、西川康之(千葉農林総研)、山本一浩(千葉農林総研)、保坂信久(千葉県農林水産部)、荒木田伸子(千葉県農林水産部)、藤田信行(神奈川県農技セ)、檜垣知里(神奈川県農技セ)
- 発表論文等 :