イミダクロプリド抵抗性トビイロウンカ系統の耐虫性水稲3品種への加害性の低下

要約

水稲品種「Rathu Heenati」と「Balamawee」、「Babawee」が有する耐虫性は、イミダクロプリド抵抗性を獲得したトビイロウンカに対する、薬剤に依存しない耕種的な防除への利用が期待できる。

  • キーワード : トビイロウンカ耐虫性遺伝子、品種加害性、イミダクロプリド抵抗性、水稲
  • 担当 : 植物防疫研究部門・基盤防除技術研究領域・海外飛来性害虫・先端防除技術グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

トビイロウンカ(本種)は、様々な殺虫剤にも抵抗性を発達させており、特にネオニコチノイド系殺虫剤イミダクロプリドに強い抵抗性をもつ。近年、本種による水稲への被害が増加しており、トビイロウンカの吸汁を抑制する働きを持つトビイロウンカ耐虫性遺伝子(BPH)を導入した水稲品種の育成と利用が進められている。しかし、本種は、これまでに育成された耐虫性品種に対する加害性を獲得する事例も報告されている。害虫の殺虫剤抵抗性発達と耐虫性作物への加害性獲得の関連性については、防除対策の観点からも重要な問題である。そこで、本研究では、イミダクロプリド抵抗性を発達させたトビイロウンカが、耐虫性水稲品種への加害性を獲得するのかどうかを明らかにするため、人為的にイミダクロプリドの半数致死薬量(LD50値)を用いて選抜したイミダクロプリド選抜系統と、アセトンで選抜した対照系統を用いて、トビイロウンカ耐虫性遺伝子を保有する水稲品種に対する加害性を比較し、イミダクロプリド抵抗性発達が耐虫性水稲への加害性に与える影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • トビイロウンカの野外個体群は、耐虫性遺伝子BPH1BPH2をそれぞれ単独で持つ耐虫性水稲品種「Mudgo(BPH1)」と「ASD7(BPH2)」に対する加害性を獲得している。フィリピンとベトナムのいずれの個体群でも、イミダクロプリド抵抗性系統における生存率および腹部肥大率(生存虫のうち吸汁により腹部が膨れた個体の割合)は対照系統と同程度であり、本種のイミダクロプリド抵抗性発達とこれら2品種に対する加害性との関連性は見られない(図1、2)。
  • フィリピンとベトナムのいずれのトビイロウンカ個体群においても、イミダクロプリド抵抗性系統では、耐虫性遺伝子を2つ以上もつ水稲品種「Rathu Heenati(BPH3,BPH17)」と「Balamawee(BPH27、Three QTLs)」上での生存率と腹部肥大率は対照系統よりも低くなる傾向がある(図1、2)。
  • 耐虫性遺伝子BPH4と未知の耐虫性遺伝子もしくはQTLを持つ可能性のある品種「Babawee」では、フィリピン個体群とベトナム個体群のいずれとも、イミダクロプリド抵抗性系統における生存率と腹部肥大率は対照系統よりも低くなる傾向がある(図1、2)。
  • これらの結果から、イミダクロプリド抵抗性が発達したトビイロウンカは水稲品種「Rathu Heenati」と「Balamawee」、「Babawee」に対する加害性を獲得しにくいことが示唆される。

成果の活用面・留意点

  • トビイロウンカのイミダクロプリド抵抗性発達は、水稲品種「Rathu Heenati」と「Balamawee」、「Babawee」に対する加害性とのトレードオフがあり、イミダクロプリド抵抗性を発達させた本種は、これらの水稲品種の耐虫性を打破しにくいことが期待できる。
  • イミダクロプリド抵抗性を発達させたトビイロウンカへの耕種的防除として、有望な耐虫性遺伝子を保有する水稲品種の利用を促進することが期待できる。

具体的データ

図1 フィリピンとベトナム個体群より作出したイミダクロプリド抵抗性系統(黄色と赤色)と対照系統(濃紺と濃紫)のトビイロウンカの耐虫性イネ品種における生存率の比較(放飼5日後の生存率%),図2 フィリピンとベトナム個体群より作出したイミダクロプリド抵抗性系統(黄色と赤色)と対照系統(濃紺と濃紫)のトビイロウンカの耐虫性イネ品種における腹部肥大率の比較(放飼5日後の腹部肥大率%)

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2018~2022年度
  • 研究担当者 : 藤井智久、真田幸代、松倉啓一郎、松村正哉
  • 発表論文等 : Fujii T. et al. Entomol. Exp. Appl.172:301-311.