要約
福島県のトマトで発生した葉の黄化や株の萎縮症状の病原は、新種のジェミニウイルス科ウイルスであり、感染性クローンを用いた接種により原病徴が再現される。ゲノム塩基配列は既知種と著しく異なる特徴を有し、同科のいずれの属にも分類が困難である。
- キーワード : tomato curly top virus(ToCTV)、ジェミニウイルス、感染性クローン、アグロインフィルトレーション、トマト、タバコ
- 担当 : 植物防疫研究部門・基盤防除技術研究領域・越境性・高リスク病害虫対策グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
2009~2010年に福島県会津地方の雨よけ栽培トマトにおいて、葉の黄化や生長点付近の萎縮症状が発生し(図1左)、本病害は後に黄化萎縮病と命名された。その症状からトマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)等のジェミニウイルス科(Geminiviridae)ウイルスの感染が疑われたが、TYLCV等の国内で発生記録があるジェミニウイルスの感染は確認されなかった。そこで、本病害の病原体の同定のため、新種ウイルスであることを想定し、ウイルスの探索、ゲノム塩基配列の解読と分類学的同定等の解析を行う。また、当該ウイルスの感染性クローンを作製して、トマトに接種し、感染性と病原性を確認することにより、病原体であることを特定する。
成果の内容・特徴
- 現地発生株を健全トマト株に接ぎ木すると、同じ病徴が再現され、本病害は接ぎ木伝染性を有する(結果省略)。接ぎ木伝染したトマト株の葉からは、ジェミニウイルスに特徴的な双球状のウイルス粒子が確認される(図1中)。
- 発症葉のDNAを鋳型としたRCA法により3.0kbの環状DNAが増幅され、その塩基配列はジェミニウイルス科に特有の構造を有し、ウイルス鎖側に2つ、相補鎖側に4つのタンパク質をコードする(図1右)。
- Tomato curly top virus(ToCTV)と命名された本ウイルスは、ジェミニウイルス科の14属のうちBecurtovirus、Curtovirus、Turncurtovirusの3属に比較的近いが、国際ウイルス分類委員会(ICTV)の分類基準では、既存のいずれの属にも割り当てられない(図2)。過去に国内で発生したジェミニウイルス種は3属(Begomovirus、Maldovirus、Mastrevirus)のみで、これら以外のウイルスとしては初である。中国のインゲンで発生したcommon bean curly stunt virusと最も配列類似性が高いが、タンパク質V3を持たない点で大きく異なる。
- ToCTVの感染性クローンを作製し、これを保持したアグロバクテリウムをタバコに接種すると、強烈な縮葉や株の萎縮が生じる(図3左)。このタバコの茎頂部を接種源としてトマトに接ぎ木接種すると、現地で観察される黄化や萎縮が再現される(図3中、右)。これらの植物はPCR検定により発症株特異的にToCTVが検出される(結果省略)。
成果の活用面・留意点
- ToCTVの診断には、プライマーとしてGemFK4-v1(5′-CCGTTTGGTGACCCAGCGT-3′)とGemFK4-c1(5′-TGGACTCTACAAAATTCAAAAATCA-3′)を用いてPCRを行う。1.3kbの増幅産物を生じた場合、陽性と判定する。より正確な診断には塩基配列解読を行う。
- ToCTVはその後発生は報告されていない。トマトおよびタバコ以外の宿主、ならびに媒介虫は不明である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2010~2022年度
- 研究担当者 : 久保田健嗣、冨高保弘、宇杉富雄、浜田博幸、千秋祐也、伊藤博樹(福島農総セ)、桑名篤(福島県)、津田新哉(法政大)
- 発表論文等 :
- Kubota K. et al. (2022) J. Gen. Plant Pathol. 89:100-108
- 久保田(2024)植物防疫 78:102-106