サツマイモの内在性コントロールプライマー

要約

プライマーIpo psaBはサツマイモのDNAを特異的に増幅させることができる。これを基腐病菌の遺伝子診断時に用いることで、試料からDNAが抽出されPCRが成功しているか判断できるため、基腐病菌の遺伝子診断における偽陰性判定を防止できる。

  • キーワード : サツマイモ、病害、PCR、偽陰性、内在性コントロール
  • 担当 : 植物防疫研究部門・基盤防除技術研究領域・越境性・高リスク病害虫対策グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

PCRによるサツマイモ基腐病菌の高感度検出において、基腐病菌の遺伝子を標的としたPCR産物の増幅が認められた場合には陽性と判定することができる。しかしPCR産物の増幅が認められなかった場合には、偽陰性が含まれていることに注意が必要とされる。これは、DNA抽出またはPCRの工程で失敗があった場合にもPCR産物の増幅は起こらないためであり、特に、DNAと共に抽出されてきたサツマイモ由来の多糖類等の夾雑物はPCRを阻害することが知られている。DNA抽出の成否及び夾雑物によるPCR阻害の有無を知るためには、サツマイモ試料から基腐病菌だけでなくサツマイモ由来のDNAについても増幅できるかを把握することが有効である。サツマイモ試料について、DNA抽出及びPCRの工程が正常に実施されれば、少なくとも試料中のサツマイモ由来DNAの増幅が認められることになる。そこで本研究では、サツマイモ基腐病菌の遺伝子診断時に偽陰性結果による誤診を防ぐために有効な、サツマイモのDNAを標的とした内在性コントロールプライマーを開発する。

成果の内容・特徴

  • 本プライマー(Ipo psaB)は、サツマイモの葉緑体の遺伝子内の領域を標的とし、基腐病菌を標的としたプライマー(Dd ITS)と同じPCRの条件で利用できる(図1)。また、基腐病菌の高感度検出と同じ条件で陽性または陰性を判定することができる(Ct値が35未満の場合に陽性、35以上の場合は陰性と判定する)。
  • 本プライマーを用いたリアルタイムPCRでは、基腐病菌の感染の有無に関わらず、サツマイモのDNAを増幅する。PCR産物の増幅が確認された場合には、試料からDNAが抽出され、かつ夾雑物等の影響なくPCRが実施されたことが確認できる。
  • 本プライマーを用いたリアルタイムPCRでサツマイモDNAの増幅が陽性と判定された場合にのみ、基腐病菌の遺伝子診断結果を検討する(表1)。本プライマーでの増幅結果が陽性である場合にのみ、遺伝子診断の工程が正常であることが保証される(表1の3および4)。本プライマーでの増幅結果が陰性の場合には、遺伝子診断の工程に異常があったと考えられるため、診断の判定を保留とし(表1の1および2)、必要に応じてDNA溶液の希釈や再精製、あるいはDNAの再抽出等を行い、遺伝子診断をやり直す。
  • 本プライマー(Ipo psaB)及び基腐病菌を標的としたプライマー(Dd ITS)によるリアルタイムPCRによって、サツマイモの茎や苗の基腐病菌感染を高感度に診断することができる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • サツマイモからのDNA抽出及びPCRの方法や試薬の詳細については、リアルタイムPCRによるサツマイモ基腐病菌の検出・同定技術標準作業手順書の方法に従って行う。
  • 本プライマーはサツマイモ葉緑体の遺伝子内の領域を標的としており、茎でも塊根でも問題なく内在性コントロールとして利用できる。
  • 基腐病以外のサツマイモ病害の遺伝子診断においても、本技術の活用が期待できる。また、リアルタイムPCRだけでなく、コンベンショナルPCRでも利用できる。

具体的データ

図1 Ipo psaB及びDd ITSを用いたリアルタイムPCRの条件と増幅結果例,表1 Ipo psaBプライマーを併用した基腐病の判定基準,表2 Ipo psaBプライマー及びDd ITSプライマーを用いたリアルタイムPCRによる基腐病菌感染サツマイモ茎の診断例

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2023年度
  • 研究担当者 : 藤川貴史、月居佳史、井上康宏
  • 発表論文等 : 月居ら(2023)関東病虫研報、70:9-14