要約
果樹害虫アザレアコナカイガラムシの性フェロモン物質は、イソプロピル(S,E)-7-メチル-4-ノネノエート、イソプロピル(E)-7-メチル-4-オクテノエート、エチル(S,E)-7-メチル-4-ノネノエートである。これらの物質はアザレアコナカイガラムシの天敵寄生蜂も誘引できる。
- キーワード : 果樹害虫、フェロモン、発生予察・検出、天敵誘引物質、土着天敵保護利用
- 担当 : 植物防疫研究部門・果樹茶病害虫防除研究領域・果樹茶生物的防除グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
アザレアコナカイガラムシCrisicoccus azalea(Tinsley)はカキなどの果樹を寄主として利用する日本の土着種であるが、これまで害虫としてはほとんど問題視されてこなかった。しかしながら本種の外見的特徴はカキの主要害虫として重視されているフジコナカイガラムシPlanococcus kraunhiae(Kuwana)やマツモトコナカイガラムシCrisicoccus seruratus(Kanda)に酷似しており、混同されてきた可能性が高い。海外ではカキの検疫対象害虫としてアザレアコナカイガラムシをリストアップしている国もあり、特に輸出用のカキ園地では本種の発生状況を的確に把握する必要がある。昆虫の性フェロモンは種ごとに特異的な組成や構造を持つため、害虫の性フェロモンを使ったフェロモントラップを開発することで種特異的な発生予察・検出が可能になる。また天敵昆虫には害虫のフェロモンを餌探索に利用する種も知られており、フェロモンを天敵誘引物質として利用することで周辺環境から土着の天敵を効率的に圃場に誘引することが可能となる。本研究ではアザレアコナカイガラムシの性フェロモンの化学構造を明らかにし、フェロモンの天敵誘引効果についても明らかにする。
成果の内容・特徴
- アザレアコナカイガラムシ(図1)のメス成虫が発する約22,400頭分に相当する量の匂い物質を収集し、この中から雄成虫誘引活性を示す成分を各種クロマトグラフィーによって単離するとともに、高分解能質量分析計、核磁気共鳴分光計、遠隔位不斉炭素識別法等を用いた化学分析によって決定されたフェロモン物質の構造はイソプロピル(S,E)-7-メチル-4-ノネノエート(1)、イソプロピル(E)-7-メチル-4-オクテノエート(2)、エチル(S,E)-7-メチル-4-ノネノエート(3)(図2)である。
- 化合物1および3はL-(+)-イソロイシンからそれぞれ6および5工程でほぼ完全な光学純度で合成することができる。化合物2はイソ吉草酸アルデヒドから3工程で合成できる(図3)。
- 合成したフェロモンを誘引源とした粘着トラップ(11×22cm)には多くのアザレアコナカイガラムシ雄成虫が捕獲されるだけでなく、アザレアコナカイガラムシの天敵寄生蜂の一種Anagyrus sp.nr.sawadaiの雌が特異的に誘引される(図4)。
成果の活用面・留意点
- フジコナカイガラムシを始めとする他種のカイガラムシのフェロモンは、既にフェロモントラップとして発生予察・検出に利用されている。本種のフェロモンも同様の用途で活用でき、アザレアコナカイガラムシ雄だけを特異的に誘引可能である。
- 天然のフェロモンは3種のフェロモンの混合物であるが、それぞれ単成分でも発生予察に十分な誘引活性を持つため、単成分でフェロモントラップの誘引剤として活用できる。特に化合物2は安価な原料から短工程で合成できるので有用である。
- フェロモンには天敵寄生蜂への誘引活性があり、天敵誘引剤として圃場に設置することで害虫との遭遇率を上昇させることで、捕食寄生行動の活性化が期待できる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2022~2023年度
- 研究担当者 : 菅原有真、田端純、安居拓恵、土田聡、井上広光
- 発表論文等 :
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田端、安居「アザレアコナカイガラムシ及びカイガラムシ類の寄生蜂の誘引物質」特開2023-99930(2023年7月14日)
- Tabata J. and Yasui H. (2022) J. Chem. Ecol. 48:609-617
- Sugawara Y. et al. (2024) J. Chem. Ecol.
doi.org/10.1007/s10886-024-01473-2