餌探索時間の長いタイリクヒメハナカメムシは定着に優れ害虫防除効果が高い

要約

天敵の放飼は害虫の発生初期に行われるが、すぐに作物上から離れて定着に失敗しやすい。タイリクヒメハナカメムシにおいて害虫を長い時間にわたって探索する系統は、餌となる害虫が低密度条件でもよく定着し、防除効果が向上する。

  • キーワード : 生物的防除、天敵の育種、餌探索行動の切替、あきらめ時間、歩行活動量
  • 担当 : 植物防疫研究部門・作物病害虫防除研究領域・生物的病害虫防除グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

天敵は害虫の発生初期に放飼する必要がある。しかし餌となる害虫の数が少ないため、天敵が栽培ほ場への定着に失敗しやすいことが利用上の大きな課題となっている。天敵は害虫とよく遭遇する餌場(栽培ほ場において、餌となる害虫がある程度密集して生息しているブロック単位)ではゆっくりと非直線的に歩く「集中型」の探索を行うのに対し、害虫に遭遇する機会が少ないと直線的に素早く移動する「広域型」の探索を行う。害虫密度が低い栽培ほ場では、天敵はすぐに集中型から広域型に探索行動を切替えて餌場間を移動し、餌が見つからない場合は作物上から逃亡、あるいは餌場間を頻繁に行き来することによって消耗し、飢餓状態に陥って死亡することが、定着に失敗する理由と推察される。そのため、害虫が少ないとすぐに探索行動を切り替えて餌場を去る天敵よりも、すぐには去らずにその場でしばらく探索を継続する天敵、すなわち「すぐにあきらめない」天敵の方がほ場での定着性に優れ、防除に貢献すると考えられる。
集中型の探索時間が長い個体は歩行活動量が低い傾向にあり、歩行活動量の低い個体を選抜することで「すぐにあきらめない」天敵を作出できると考えられる。そこで、難防除害虫アザミウマ類の天敵であるタイリクヒメハナカメムシにおいて歩行活動量の低い個体を選抜し、系統を育成することで、餌低密度条件という天敵の活動に適さない環境でもよく定着し、害虫の防除効果を高められるかどうかを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 餌場内で探索をあきらめて立ち去るまでの時間(あきらめ時間)が短い個体は、ミナミキイロアザミウマを1頭捕食後、直線的に歩行してすぐにエリア外に到達するのに対し、あきらめ時間が長い個体はガラスチューブ内を何度も往復し、ガラスチューブを抜け出した後も非直線的に歩行している(図1)。
  • 各個体の歩行活動量を測定し、歩行活動量の低い個体を選抜することにより、歩行活動量の低い系統を育成できる(図2)。
  • 歩行活動量の低い系統(選抜系統)は非選抜系統に比べて、あきらめ時間が長い(図3)。
  • 施設ナスほ場において、選抜系統の成虫は非選抜系統の成虫に比べて長くナス上に留まり、アザミウマの増加を抑制する(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究の圃場調査は試験期間が短期間であるため、長期的な検証が必要である。
  • 改良した系統を実用化するには、農薬登録する必要がある。
  • イチゴで問題になっている難防除害虫アザミウマ類等での活用が期待される。
  • 歩行活動量に関連する遺伝子を解明し、マーカー選抜等をおこなうことで、さらに定着性を向上させることが期待できる。
  • 定着性の向上とともに、難防除害虫をたくさん食べることや低温条件での活動性など他の機能も強化することで、これまで天敵の利用が難しかった作物や栽培環境など多くの場面での活用が期待される。

具体的データ

図1 「あきらめ時間」が短い個体と長い個体の歩行活動の比較,図2 人為選抜によるタイリクヒメハナカメムシ雌成虫の歩行活動量の変化,図3 タイリクヒメハナカメムシ雌成虫における各系統のあきらめ時間,図4 ナス株上でのタイリクヒメハナカメムシの定着数およびアザミウマに対する防除効果

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(ムーンショット型農林水産研究開発事業)、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2016~2023年度
  • 研究担当者 : 世古智一、三浦一芸、村上理都子、勝野智也
  • 発表論文等 :
    • Seko T. and Miura K. (2024) J. Pest Sci. doi.org/10.1007/s10340-023-01696-4
    • 世古ら、特願(2022年11月25日)
    • 世古、三浦「地域集中探索型天敵の作出方法」特許第6346407号(2014年11月6日)
    • 世古、三浦「地域集中探索型天敵製剤」特許第6596118号(2018年9月6日)