ナス科植物が感染する6種のオルソトスポウイルスを同時に検出するRT-PCR法

要約

マルチプレックスRT-PCR法を用いて、ナス科植物が感染する6種のオルソトスポウイルスを同時に検出する。本法を利用することにより、トマトやピーマン等の罹病植物において6種のオルソトスポウイルスのそれぞれの感染の有無を簡便かつ高感度に調べることができる。

  • キーワード : オルソトスポウイルス、マルチプレックスRT-PCR、診断
  • 担当 : 植物防疫研究部門・作物病害虫防除研究領域・生物的病害虫防除グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

アザミウマ類によって媒介されるオルソトスポウイルス属のウイルスは、ナス科やキク科などの作物に黄化えそ症状や輪紋症状を引き起こし、収量や品質低下などの被害をもたらしている。オルソトスポウイルス属のウイルスは、種によって媒介されるアザミウマ種や宿主範囲が異なるため、ウイルス種の識別は殺虫剤や品種の選定に重要である。国内のナス科作物に感染するオルソトスポウイルスは、トマト黄化えそウイルス(TSWV)、トマト環紋ウイルス(TZSV)、インパチエンスえそ斑点ウイルス(INSV)、キク茎えそウイルス(CSNV)、スイカ灰白色斑紋ウイルス(WSMoV)およびトウガラシ退緑ウイルス(CaCV)の6種が報告されている。これまでに国内に発生しているオルソトスポウイルスを検出するためのマルチプレックスRT-PCR法が報告されているが、ウイルス種についての特異性がやや低く、CaCVおよびWSMoVが互いに誤検出されることが判明し、改良が望まれている。また、これらの手法は、2021年に神奈川県のピーマンにおいて新たに報告されたTZSVに対応していない。そこで、本研究では2021年に国内で新たに確認されたTZSVを含む国内のナス科作物が感染する6種のオルソトスポウイルスを一度の反応で同時に検出するためのマルチプレックスRT-PCR法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本法は、TSWV、TZSV、INSV、CSNV、WSMoVおよびCaCVに特異的なプライマーとそれらすべてのウイルスに共通の塩基配列に設計したプライマーを用いる(図1)。
  • プライマーの終濃度を、TOS-R15が2μM、TSWV-828、TZSV-731、INSV-589、CSNV-499およびWSMoV-392が0.2μM、CaCV-321が0.6μMとなるようにプライマー混合溶液を調製する。RT-PCRにはQIAGEN OneStep RT-PCR Kit(QIAGEN)を使用し、図1に示した条件でRT-PCRを行う。その後、2%アガロースゲルを用いてPCR産物を電気泳動することにより、1度の反応で6種のウイルスを検出できる。
  • 本法を用いることによって、各ウイルスを単独で感染させた植物(Nicotiana benthamiana)から各ウイルス由来の特異的増幅産物が得られた(図2)。従来法では対応していないTZSVおよび誤検出されるCaCVおよびWSMoVも正しく検出でき、誤検出されない。また、従来法の10から100分の1の全RNA量(1~0.1ng)からウイルスを検出することができる(図3)。
  • 本法を用いることによって、ピーマンの生産圃場において発生した黄化えそ症状を示す罹病株からウイルスを特異的に検出することが可能である(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本法は、QIAGEN OneStep RT-PCR Kit(QIAGEN)を使用してRT-PCR条件を最適化しているため、異なる試薬を使用した場合、オルソトスポウイルスに由来しない非特異増幅産物が確認される場合がある。

具体的データ

図1 マルチプレックスRT-PCRに使用したプライマーおよびRT-PCR条件,図2 本法で検出された6種オルソトスポウイルス由来のDNA断片,図3 各ウイルスの検出感度,図4 生産圃場における罹病ピーマンからのウイルス検出

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2021~2023年度
  • 研究担当者 : 松山桃子、冨髙保弘、島田涼子(神奈川県農技セ)
  • 発表論文等 : 松山ら(2023)日本植物病理学会報、89(3):128-135