要約
果樹胴枯細菌病(急性枯死症)の多発圃場における被害低減を目標とし、診断や対策技術を解説したガイドブックである。本ガイドブックは、①本病の概要、②モモ、ナシ、リンゴの病徴・類似症状、発生状況や対策技術、③病原菌の検出法から構成され、現場での防除に活用できる。
- キーワード : 果樹胴枯細菌病、Dickeya dadantii、モモ、ナシ、リンゴ
- 担当 : 植物防疫研究部門・果樹茶病害虫防除研究領域・果樹茶生物的防除グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
果樹胴枯細菌病はモモ、ナシ、リンゴなどのバラ科果樹の植裁後3年以降の若齢樹に発生し、夏季~秋季の降雨後に赤褐色の樹液を漏出して急激に枯死させる病害である。病原菌はDickeya属菌(旧Erwinia chrysanthemi)で、その中でもD. dadantiiが主である。本病の症状は凍害や種々の糸状菌病害等と類似することも多く、目視での区別が難しい場合がある。また本病は水田転換園等の水はけの悪い圃場で多発する傾向にあり、登録農薬がないことから対策は耕種的手法に頼らざるを得ない。本ガイドブックでは果樹胴枯細菌病の多発圃場においてその被害の低減を目標とし、診断のための情報や対策技術を提示する。
成果の内容・特徴
- 本ガイドブック(図1)は、①本病の概要を述べた総論、②モモ、ナシ、リンゴ各々における病徴および類似症状、ならびに現時点で有効と考えられる対策技術を解説した各論、③診断のため種々の検出技術を解説した参考情報の3部構成である。
- 総論では、病原細菌の生物学的特性、樹体内での病原細菌の分布、病原細菌の土壌中残渣や雑草における所在から推定される本病の発生生態に基づいた対策技術(図2)について解説している。
- 各論では、モモ、ナシ、リンゴ各々における病徴(図3)および類似症状とその見分け方、現地での発生状況、現時点で有効と考えられる対策技術および必要なコスト等を解説している。
- 参考情報では、培地や生物検定による病原細菌の検出法、PCR法およびLAMP法等の遺伝子診断(図4)、また被害部位または菌体からの遺伝子診断に必要なDNA抽出法を解説している。
- 本ガイドブックを活用することで、果樹胴枯細菌病の防除対策が進み、本病が問題となっている果樹産地においてその発生を対策前よりも低減することによって、本来見込まれる果実生産量が得られることが期待される。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 植物防疫所、都道府県病害虫防除所、公設試。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国のナシ・モモ・リンゴ生産地(予定普及面積168ha)。
- その他 :
ガイドブックに記載した対策技術は、主に苗木を用いて定植後1~5年間について検証したものである。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産研究推進事業:果樹等の幼木期における安定生産技術の開発)
- 研究期間 : 2015~2024年度
- 研究担当者 : 佐々木厚子、藤川貴史、大田将禎、吉田卓司、馬場隆士、阪本大輔、岩波宏、堀井幸江、井上博道、田中はるか(愛知県農総試)、鈴木良地(愛知県農総試)、内田祐太(愛知県農総試)、石井直樹(愛知県農総試)、松崎聖史(愛知県農総試)、大野郁夫(愛知県農総試)、杉原巧祐(愛知県農総試)、中根基貴(愛知県農総試)、上林義幸(愛知県農総試)、恒川健太(愛知県農総試)、水上優子(愛知県農総試)、森敬子(愛知県農総試)、永井裕史(愛知県農総試)、堀川英則(愛知県農総試)、中村遼太郎(愛知県農総試)、水谷浩孝(愛知県農総試)、石原元浩(愛知県農総試)、今川渉(愛知県農総試)、東大介(愛知県農総試)、坂野満(愛知県農総試)、荒川みずほ(愛知県農総試)、間下なぎさ(愛知県農総試)、又場孔明(愛知県農総試)、安藤寛子(愛知県農総試)、福田至朗(愛知県総試)、猫塚修一(岩手県農研)、河田道子(岩手県農研)、石川勝規(岩手県農研)、大野浩(岩手県農研)、遊佐公哉(岩手県農研)、熊谷拓哉(岩手県農研)、羽田厚(岩手県農研)、髙橋藍(岩手県農研)、藤沢巧(岩手県農研)、小野浩司(岩手県農研)、三田村諭(岩手県農研)、加藤真城(岩手県農研)、桐野菜美子(岡山県農総セ)、苧坂大樹(岡山県農総セ)、河村美菜子(岡山県農総セ)、大家理哉(岡山県農総セ)、佐々木郁哉(岡山県農総セ)、森次真一(岡山県農総セ)、髙田真里(岡山県農総セ)、川上敦子(岡山県農総セ)、吉村諒介(岡山県農総セ)、水田有亮(岡山県農総セ)、竹岡みのり(岡山県農総セ)、寺地紘哉(岡山県農総セ)、白石祥子(佐賀県果樹試)、衞藤友紀(佐賀県果樹試)、近藤知弥(佐賀県果樹試)、池田亜紀(佐賀県果樹試)、太田政隆(佐賀県果樹試)、児玉龍彦(佐賀県果樹試)、原口悛輔(佐賀県果樹試)、加藤恵(佐賀県果樹試)、田中つなみ(佐賀県果樹試)、前田貢輝(佐賀県果樹試)、鳥羽理香子(佐賀県果樹試)、石丸晃成(佐賀県果樹試)、日下部翔平(福島県農総セ)、南春菜(福島県農総セ)、七海隆之(福島県農総セ)、藤田剛輝(福島県農総セ)、湯田美菜子(福島県農総セ)、菊地幹之(福島県農総セ)、安達祐介(福島県農総セ)、半澤勝拓(福島県農総セ)、吉成美嘉(福島県農総セ)、梅津輝(福島県農総セ)、矢吹隆文(福島県農総セ)、栁沼利和(福島県農総セ)、齋藤義樹(福島県農総セ)、鈴木貴幸(福島県農総セ)、西條勇太(福島県農総セ)、岩波徹(東農大)、篠原弘亮(東農大)、キム オッキョン(東農大)
- 発表論文等 :
- Fujikawa T. et al. (2019) J. Gen. Plant Pathol. 85:314-319
- 中村ら(2019)北日本病虫研報、70:96-100
- Ota N. and Fujikawa T. (2020) J. Gen. Plant Pathol. 86:199-204