要約
かいよう病防除を目的とした過炭酸ナトリウムおよびEDTAから成るキウイフルーツ花粉除菌資材である。花粉を懸濁させた授粉用液体増量剤に除菌剤を加えて振とうすることで花粉に混入したかいよう病菌を効率的に除くことができる。本剤で除菌を行った花粉は果実生産に影響を与えない。
- キーワード : キウイフルーツ、キウイフルーツかいよう病、花粉、溶液授粉、花粉除菌剤
- 担当 : 植物防疫研究部門・果樹茶病害虫防除研究領域・果樹茶生物的防除グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
国内のキウイフルーツ産地でかいよう病菌Psa3系統の発生が問題になっている。国内での本系統の蔓延は急速であり、その理由の一つとしてPsa3系統に汚染された輸入花粉を国内各地で授粉に使用した可能性が考えられている。海外においても汚染花粉からかいよう病菌を除くための技術開発が行われているが未だ実用化には至っていない。そこで本研究では、かいよう病菌に汚染されたキウイフルーツ花粉から効率的に本菌を除くことを可能とする資材および使用方法を開発する。
成果の内容・特徴
- 開発した除菌剤はキウイフルーツで現在主流となっている溶液授粉と組み合わせて利用する。本技術で除菌した花粉を使用することで、花粉を媒介したかいよう病発生リスクが低減されキウイフルーツ生産量の10%増加が期待できる(データ略)。
- 除菌剤はEDTAと過炭酸ナトリウムで構成される。除菌は、従来どおり花粉を懸濁させた授粉用液体増量剤にEDTAおよび過炭酸ナトリウムを加えて激しく振り混ぜることで行う。キウイフルーツ花粉にかいよう病菌を混合して作製した汚染花粉に本除菌剤を処理した場合、かいよう病菌に対し99.99%の殺菌効果がある(図1)。
- 除菌の処理手順は図2のとおりである。スクリューキャップ付きのプラスチック容器に入れた1Lの液体増量剤に花粉5gを加えて5分間混和し花粉を液体増量剤になじませる。次いでEDTAおよび過炭酸ナトリウムをそれぞれ終濃度1mMおよび0.05%になるように花粉懸濁液に加え、容器ごと30秒間激しく振り混ぜる。除菌後直ちに花粉懸濁液をハンドスプレーに移し替え、花粉発芽率低下による着果率低下を避けるため必ず30分以内に使い切る。なお液体増量剤に花粉、除菌剤を加える順序は図2のとおり決まっており、増量剤に花粉よりも先に除菌剤を加えてしまうと発芽率の低下を引き起こす(図3)。
- 本技術を用いて除菌を行った花粉を授粉に用いても果実品質および生産性に影響しない(表1)。
普及のための参考情報
- 普及対象 : キウイフルーツ生産者。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 愛媛県、福岡県、和歌山県はじめ全国のキウイフルーツ生産地1,400ha。
- その他 :
- 除菌剤は製造メーカーから2026年3月に授粉用液体増量剤とセットで販売予定である。
- 花粉は農作物ではなく生産資材のため花粉除菌剤は農薬取締法の適用外となり本除菌剤を花粉に対して用いる限り農薬登録は不要である。一方で本除菌剤をキウイフルーツかいよう病等防除のため圃場に散布した場合には農薬取締法に違反となる。
- 除菌剤の組成および処理方法については特許申請ずみ。生産者等が独自に試薬を準備して本手法を利用するには特許実施許諾が必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業)
- 研究期間 : 2019~2024年度
- 研究担当者 : 須﨑浩一、杉浦裕義、大槻拓海(静岡県農技研果樹研)、佐々木俊之(静岡県農技研果樹研)、生咲巖(香川県農試府中果樹研)、川北兼奬(香川県農試府中果樹研)、中山史菜(香川県農試府中果樹研)、伊賀悠人(香川県農試府中果樹研)、青野光男(愛媛県農林水産研果樹研)、八木遥(愛媛県農林水産研果樹研)、兵頭紋佳(愛媛県農林水産研果樹研)、宮田信輝(愛媛県農林水産研果樹研)、岡田雅道(愛媛県農林水産研果樹研)、合田光(愛媛県農林水産研果樹研)、大熊祐之介(愛媛県農林水産研果樹研)、菊原賢次(福岡県農林試)、坂井妙子(福岡県農林試)、古澤典子(福岡県農林試)、瀬戸山安由美(福岡県農林試)、朝隈英昭(福岡県農林試)、神戸賢(白石カルシウム株式会社)、大崎久美子(鳥取大)、増中章(名城大)
- 発表論文等 : 須﨑、生咲、特願(2025年2月28日)