要約
Sr放射起源同位体比(87Sr/86Sr)をマーカーとして利用した移動解析手法である。地域によって同位体比が異なることを利用し、後退流跡線解析や気象データと組み合わせることで、長距離移動性害虫の移動追跡、飛来源推定、周年発生地域の調査に利用できる。
- キーワード : 長距離移動性害虫、Sr同位体比、後退流跡線、周年発生地域
- 担当 : 植物防疫研究部門・基盤防除技術研究領域・海外飛来性害虫・先端防除技術グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
日本には様々な長距離移動性の農業害虫が飛来する。これらは突発的に日本に飛来することがあり、飛来が分からないと被害が拡大した段階で初めて発生に気が付く等、対応が遅れてしまう。そのため、飛来予測を行って飛来警戒と発生初期での適期防除を実現していく必要がある。しかしながら、トラップ等に誘殺された個体は海外から飛来したものか国内で発生したものかを識別できないため、海外から飛来しているかどうかの直接的な証拠を示すことができなかった。
そこで本研究ではアワヨトウとツマジロクサヨトウを対象として、ストロンチウム(Sr)放射起源同位体比(87Sr/86Sr)(以下Sr同位体比と呼ぶ)をマーカーとして利用し、後退流跡線解析や気温等の気象データと組み合わせることでモニタリングを実施して海外飛来と国内分散の実態を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 日本と中国の寄主植物(トウモロコシおよびコムギ葉)およびそれらで飼育したアワヨトウに含まれるストロンチウムをカラム分離により抽出し、表面電離型試料分析装置(TIMS)でSr同位体比を測定した。日本と中国で値を比較すると、中国が有意に高い値を示す。さらに西日本の長崎県で捕獲されたアワヨトウの中には、Sr同位体比が日本産の寄主植物や飼育虫よりも高い個体が混在している(図1)。
- Sr同位体比の高い虫のトラップ誘殺日について後退流跡線解析を行うと、トラップ地点からの流跡線は中国東部の発生地に達している(図1)。
- Sr同位体比と後退流跡線を併せた解析手法により、アワヨトウの中国から日本への飛来が推定できる。
- 同様の方法で冬季に日本の南西諸島の4島にてトラップに誘殺されたツマジロクサヨトウのSr同位体比を測定したところ、各島で寄主植物(サトウキビ葉)の値と近い値を示す(図2)。冬季の気温や風向等の気象データと併せて考察すると、ツマジロクサヨトウは少なくとも奄美大島以南において周年発生していることが推定できる。
成果の活用面・留意点
- Sr同位体比の範囲が重なっている国内の地域(日本の中国地方~中部地方のSr同位体比の高い地域)においては、値の違いによる判別ができないため、上記の解析手法が使用できない。
- アワヨトウやツマジロクサヨトウでは越冬できる地域が限られるため、春~初夏では証明が容易であるが、飛来した親から生じた次世代が羽化する夏以降では、中国と同じような同位体比の地域の国内分散個体が混ざり、推定が困難となる。
- Sr同位体比解析により、海外飛来や国内分散等の飛来実態、周年発生地域等の発生実態が明らかとなれば、農林水産省・植物防疫所・都道府県防除所に情報を提供できる。また、より正確な飛来予測システムの開発に貢献できる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(戦略的国際共同研究推進委託事業:越境性害虫の発生実態・移動経路の解明による高精度な飛来予測・発生予察手法の開発、イノベーション創出強化研究推進事業)
- 研究期間 : 2019~2024年度
- 研究担当者 : 日髙直哉、眞田幸代、秋月岳、大塚彰、Caihong TIAN(河南省農科院)、Jianrong HUANG(河南省農科院)、Guoping LI(河南省農科院)、Hongqiang FENG(河南省農科院)、陀安一郎(地球研)、申基澈(地球研)、新山徳光(秋田県農試)、Gao HU(南京農大)、親泊貴志(沖縄県防技セ)、比嘉真太(沖縄県防技セ)、金城邦夫(沖縄県防技セ)、池之上祐紀(鹿児島県農総セ)
- 発表論文等 :
- Hidaka N. et al. (2024) iScience 27(11):111160 doi: 10.1016/j.isci.2024.111160
- Hidaka N. et al. (2024) Journal of Applied Entomology 148(6):632-642 doi:10.1111/jen.13254