要約
トマト等の重要病原体であるトバモウイルスのtomato brown rugose fruit virusに対して、抵抗性遺伝子Tm-1をホモで有するトマト系統は一時的には抵抗性を示すが、接種後数ヶ月が経過すると、Tm-1打破能を獲得したウイルス変異株が容易に出現する。
- キーワード : tomato brown rugose fruit virus(ToBRFV)、トマト、抵抗性、打破
- 担当 : 植物防疫研究部門・基盤防除技術研究領域・越境性・高リスク病害虫対策グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
2014年にイスラエルで発生した新種トバモウイルスのtomato brown rugose fruit virus(ToBRFV)は、トマトで広く用いられるトバモウイルス抵抗性遺伝子Tm-2aが全く機能しないことから、抵抗性品種による防除手段が限られている。抵抗性遺伝子Tm-1をヘテロで有する品種も同様に無効であるが、Tm-1をホモで有するトマト系統への短期の接種試験では、有効である可能性が示されている。そこで、Tm-1ホモの品種に接種し、より長期に栽培した際の有効性を評価するとともに、有効でない場合には、その原因を明らかにする。
成果の内容・特徴
- ToBRFV-DSMZ PV-1241株(以下PV株)の葉への接種により、Tm-2aヘテロの品種である「ハウス桃太郎」では、接種2週間後から全身感染およびモザイク等の発症が認められるのに対して、Tm-1ホモの系統である「GCR237」は、接種50日後までは、発症せず、上位葉の感染も認められない。しかし、99日後には全身感染が認められ、モザイクを発症する(図1)。
- 「ハウス桃太郎」および「GCR237」の葉に感染しているToBRFVの全長塩基配列を解読すると、前者の配列は接種したPV株の配列と同一であったのに対して、後者はそれぞれ異なるパターンの塩基置換変異が認められた。また、「GCR237」感染葉から作製した単病斑分離株4株はいずれも、ウイルスRNAの複製酵素である126K/183Kタンパク質にアミノ酸置換変異を有した(図2)。これらのアミノ酸置換変異は、トマトモザイクウイルス(ToMV)の複製酵素のヘリカーゼドメインのうちTm-1タンパク質と結合する部位に存在し、Tm-1打破に寄与するアミノ酸置換変異の位置に類似していた(図3)。
- 「GCR237」から得られた上記の単病斑分離株B2Lを「GCR237」の幼苗に接種すると、接種した3個体全てが2週間後には全身感染してモザイクを発症した(図4)。他の3分離株も同様の結果であったが、親株のToBRFV-PVは上位葉での感染は認められなかった。よって、4分離株はいずれもTm-1ホモ系統に対する打破能を獲得していた。
- アミノ酸配列データベースに登録された世界のToBRFV株の229配列のうち、約10%は、上記単病斑分離株に類似したアミノ酸置換変異を有し、Tm-1ホモ系統の打破能を有すると考えられる。一方で約90%はPV株と同様のアミノ酸配列を有し、Tm-1ホモ系統の打破能は有さないと考えられるが、これらの株も、今回の接種試験と同様に、Tm-1ホモ系統に感染して一定の時間が経過すると、塩基およびアミノ酸置換変異が生じて、打破能を容易に獲得することが予想される。
成果の活用面・留意点
- トマトなどナス科果菜類育種関係者、病害虫研究・普及指導関係者向けの情報である。
- トマトのToBRFV抵抗性育種の方向性として、Tm-1ホモに頼ることは、抵抗性を打破するウイルス変異株が容易に生じることが予想され、有効ではない可能性が高い。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:Tomato brown rugose fruit virusの多検体診断技術及び防除技術の開発)
- 研究期間 : 2020~2024年度
- 研究担当者 : 久保田健嗣、竹山さわな、松下陽介、石橋和大
- 発表論文等 :
- Kubota K. et al. (2024) J. Gen. Plant Pathol. 90:187-195
- Ishibashi K. et al. (2023) J. Gen. Plant Pathol. 89:305-321