転炉スラグ懸濁液を用いた浸種はイネの発芽・発根・初期生育を促進する

要約

転炉スラグを水に懸濁させイネの種子を浸種すると、発芽・発根から出芽までの初期生育を促進できる。浸種中は換水が不要であり、通常育苗や直播を想定した実験条件でも出芽率は向上する。本法により、種子予措作業の省力化が期待できる。

  • キーワード : イネ、転炉スラグ、浸種、発芽促進、発根促進
  • 担当 : 植物防疫研究部門・作物病害虫防除研究領域・病害虫防除支援技術グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

水稲栽培前の種子予措は、播種前に種子を発芽・発根させ安定した出芽を目指す準備作業である。そのうち、種子に十分吸水させ、発芽に必要な積算温度を確保する浸種が最も作業期間を要する(積算温度100°Cの場合、水温15°Cでは1週間、20°Cでは5日間)。この間、種子の酸欠や水の腐敗を防ぐため、1-2回換水する必要がある。また直播栽培においては、活着不良による浮稲・倒伏や、酸欠による出芽不良を防ぐため種子コーティング等の対策を要するが、熟練した技術を求められ、作業の工程・時間も増加する。そこで、本研究では省力的な種子予措技術の開発を目指し、肥料や土壌改良材として利用される転炉スラグを浸種時に添加し、イネの生育に対する影響を実験条件下で明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 粉状の転炉スラグ(図1a)を水40mLに対し1gの割合で添加した懸濁液で、チューブ中でイネの種子を水温20°Cで4日間浸種する(以下、スラグ浸種)と、従来通りに水を用いた場合に比べて発芽が促進され、浸種期間を短縮できる(図1b)。転炉スラグ懸濁液は、雑菌等の微生物が増殖しにくい強アルカリ性(pH11-11.5)であるため、浸種液の換水が不要となる。
  • スラグ浸種後、通常行われる水温30°Cで1日間の催芽処理をチューブ中で行うと、従来に比べて子葉鞘の伸長が促進される(図2a)。チューブを用いた浸種・催芽は酸欠を想定した溶存酸素濃度が低い条件であるが、シャーレを用いた溶存酸素濃度が高い条件の浸種・催芽と同程度の生育が担保される(図2b)。
  • スラグ浸種後、無コーティング直播の前処理で必要となる30°Cで2日間の根出し処理を蒸気式恒温恒湿で行うと、従来に比べて種子根・冠根および側根の発達が促進される(図3)。これにより、根出し処理の期間を短縮できる。
  • スラグ浸種後、催芽処理を省略して通常育苗あるいは直播を想定した実験条件でビニルポットに播種し、温室で栽培管理すると、いずれも慣行に比べて出芽率が向上し(図4)、健全に生育する苗が増加する。これにより、催芽処理を省略できる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は今後、育苗箱スケールでの育苗試験・小区画での直播試験を行って生育を確認することにより、換水作業と催芽処理を省略し、浸種期間を短縮した新しい種子予措体系の開発に活用できる。
  • 本成果は品種「キヌヒカリ」で得られた結果である。このため、他の品種については、転炉スラグ懸濁液の濃度や浸種の期間を検討する必要がある。スラグ浸種のみを従来の種子予措作業に導入し、種子消毒を含む浸種期間の短縮・催芽の省略等を行わないと、イネの生育が過剰となり徒長を招くので注意する。
  • 転炉スラグ懸濁液はアルカリ性が強いため、防護手袋、保護メガネ等を着用してから作業することを推奨する。また、転炉スラグは金属やガラスを腐食しやすいため、使用した農器具等は速やかに洗浄する。転炉スラグは肥料であるため、使用した懸濁液は施肥に利用できる。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 交付金、民間資金等(資金提供型共同研究)
  • 研究期間 : 2020~2023年度
  • 研究担当者 : 太田光祐、井之口曜、光永貴之、芦澤武人
  • 発表論文等 :
    • Ota K. et al. (2024) Soil Science and Plant Nutrition 71:68-78
    • 太田「生育促進方法、及び生育促進剤」特許第7674003号(2024年3月8日)