トマト等種子を対象としたtomato brown rugose fruit virusの検出法

要約

国内未発生の重要病原体であるtomato brown rugose fruit virus(ToBRFV)を高感度かつ特異的に検出できる、SYBR Green法によるリアルタイムRT-PCR法である。トマト、ピーマン、ナス等のナス科作物の種子の検査に適用できる。

  • キーワード : リアルタイムRT-PCR (RT-qPCR) 、SYBR Green法、融解温度、トバモウイルス
  • 担当 : 植物防疫研究部門・基盤防除技術研究領域・越境性・高リスク病害虫対策グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

2014年にイスラエルで発生した新種トバモウイルスのtomato brown rugose fruit virus(ToBRFV)は、トマト等ナス科作物に発生し、種子伝染性を有する。日本では未発生であるが、その国内侵入を防止するため、トマト等種子の輸入時には高精度な検査手法が求められる。種子検査にはTaqManプローブ法によるリアルタイムRT-PCR(以下RT-qPCR)法が用いられるが、プローブが高価格であることや、融解曲線解析によって増幅産物の正しさを確認することができないデメリットもある。そこで、融解曲線解析が可能なSYBR Green法によるRT-qPCR法を開発する。また、トマト等ナス科種子における検出感度、および、国内既発生の6種のナス科トバモウイルスとの識別能力を評価する。

成果の内容・特徴

  • 新たに設計したRT-qPCRプライマーセットNARO2は、ToBRFVの複製酵素遺伝子配列中の160bpを増幅する(表1)。トマトモザイクウイルス(ToMV)やタバコモザイクウイルス(TMV)等、他の国内既発生トバモウイルスに対しては少なくとも5塩基の相違を有し、ToBRFVを特異的に増幅できる。
  • 検査対象はトマト等ナス科作物の種子である。種子検査で一般的に要求されるサブサンプルサイズ(400、500、または1000粒)の種子を、ミキサー等により粉砕し、市販のRNA精製キット等を用いて準備したRNAを鋳型とする。図1に示す手順でSYBR Green法によるワンステップRT-qPCRを行い、増幅曲線および融解曲線解析により、Ct値とTm値を算出する。
  • 本法では、Ct値が概ね29未満、かつTm値が79.5°C~82.0°Cの場合に陽性と判定する。健全種子RNA、または健全種子RNAにToMV等他の国内既発生トバモウイルスのRNAを加えて作製した疑似汚染種子RNAでは、同コピー数のToBRFV RNAを加えて同様に作製したRNAとは明確に異なるCt値およびTm値を示し(図2)、陰性と判定される。健全ピーマン種子と、ピーマン・トウガラシ類に発生するパプリカ微斑ウイルス(PaMMV)、トウガラシ微斑ウイルス(pepper mild mottle virus、PMMoV)、ジオウモザイクウイルス(Rehmannia mosaic virus、ReMV)、タバコ微斑モザイクウイルス(tobacco mild green mosaic virus、TMGMV)を用いても同様の結果となる(結果省略)。
  • トマト種子1粒を対象とした場合、ToBRFV感染トマトから採取した自然汚染種子、および既知濃度のToBRFV精製粒子から作製した人工汚染種子での検出感度の比較から、自然汚染種子の1万倍の1量のごく低濃度に汚染させた種子でも、陽性と判定できる(結果省略)。
  • トマト種子1000粒中、ToBRFV自然汚染種子が1粒のみ含まれるサブサンプルからも、検出が可能である(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 特許出願中であるため、利用を希望する場合は、問い合わせが必要となる。
  • 植物防疫所や登録検査機関が実施する種子の輸出入検査や、種苗会社における種子の品質管理に利用できる。
  • このプライマーセットはトマトのほか、ピーマン・トウガラシ類、ナスの種子検査にも適用可能と考えられるが、PCR条件の最適化のための調整を事前に行うことを推奨する。

具体的データ

表1 tomato brown rugose fruit virus(ToBRFV)検出用プライマーセットNARO2,図1 RNA-direct SYBR Green Realtime PCR Master Mix(東洋紡)を用いる場合のワンステップRT-qPCR法のプロトコル。,図2 トマトおよびピーマン種子におけるプライマーセットNARO2を用いたワンステップRT-qPCR法(SYBR Green法)によるToBRFVの検出、および他の国内既発生ナス科トバモウイルス種との識別性の評価。,図3 サブサンプルサイズ1000粒のトマト種子からの検出の実施例。(左)増幅曲線解析。

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業 : Tomato brown rugose fruit virusの多検体診断技術及び防除技術の開発)
  • 研究期間 : 2020~2024年度
  • 研究担当者 : 太田江美、篠坂響、石橋和大、竹山さわな、松山桃子、冨髙保弘、松下陽介、大﨑康平、久保田健嗣
  • 発表論文等 :
    • Ota E. et al. (2025) J. Gen. Plant Pathol. 91:160-170
    • 久保田ら、特願(2024年8月19日)