摩耗作用が激しい水利施設に適用可能な新たな促進摩耗試験「回転式水中摩耗試験」

要約

円筒型試験装置の内部に、砂礫を模した角柱状の鋼材を含む水流を発生させることによって、水利施設で生じる砂礫の掃流摩耗を再現する促進摩耗試験である。本試験によって、現場で生じる摩耗を室内で再現することができ、現場の実態に即した材料の耐摩耗性評価が可能となる。

  • キーワード:掃流摩耗、頭首工、補修材、耐摩耗性、品質照査試験
  • 担当:農工研・施設工学研究領域・施設保全グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

全国に存在する約2,000箇所の頭首工のうち約4割が耐用年数を超過しており、補修による施設の長寿命化対策が進められている。
河川構造物である頭首工(特にエプロン部)では、河床砂礫の流下による激しい摩耗が生じる。そのため、頭首工エプロンの補修材を選定するにあたっては、使用する補修材が十分な耐摩耗性を有しているかを事前に照査する必要がある。耐摩耗性の照査は、現地で生じる摩耗現象をできるだけ再現した試験によって評価されることが望ましいが、河床砂礫の流下を模擬できる試験法は少ない。
そこで、エプロン系施設に用いる補修材の耐摩耗性を評価することを目的に、河床砂礫の流下による摩耗を模擬した新たな試験(回転式水中摩耗試験)を開発する。

成果の内容・特徴

  • 回転式水中摩耗試験装置は、アウトドラムとセンタードラムの間に回転アームおよびシャフトによって支持された回転板が90度ごとに4枚設置された構造であり、供試体は装置の底盤に配置する(図1a)。試験時には、供試体の上部に水および鋼製の研磨材を投入し、モーター駆動により回転板を回動させることで装置の内部に水流を発生させる。水流に伴って研磨材が供試体表面に衝突しながら移動することによって供試体を摩耗させる(図1b)。
  • 本試験の供試体は、台形型(上底91.2mm、下底218.8mm、高さ300mmおよび厚さ55mm)であり、15個の供試体を円環状に配置する。1回の試験で複数の材料を評価する場合には、同じ材料を連続して並べ、異種材料と隣接する供試体は評価対象から省く。これは、摩耗量が大きく異なる材料が隣り合って配置された場合に、互いに影響し合う可能性があるためである。このように配置することでそれぞれの材料の耐摩耗性を適切に評価できる(図1c)。
  • 試験後の供試体の摩耗状況を図1dに示す。本試験では、遠心力で研磨材が装置の外周側に集まりやすいため、供試体外側の摩耗量が大きくなる。
  • 試験装置内の流れが安定する条件として、装置に投入する水量は水深40cm相当、回転速度は1分間に70回転を基本とする。また、試験に使用する研磨材の形状や数、試験時間は目的に応じて自由に設定することができ、これらを変更することで供試体に発生する摩耗力を調整することができる。
  • 試験後、供試体に生じる平均的な摩耗深さ(平均摩耗深さ)を指標に材料の耐摩耗性を評価する。平均摩耗深さの算出手順として、まず1供試体につき7測線、レーザー距離計によって摩耗深さを計測する。各測線において特に摩耗量が顕著な供試体の外側100mmの範囲で摩耗深さの平均値を求め、さらに全7測線の平均をとることによって、供試体の平均摩耗深さを算出する(図2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:補修材料を開発するメーカーおよび試験業務を担うコンサルタント会社。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:本試験の対象はエプロン系施設に限らず、砂礫の掃流摩耗が想定されるコンクリート全般の評価に適用できる。
  • その他:試験装置および試験方法の2件について特許出願中。

具体的データ

図1 回転式水中摩耗試験の概要,図2 平均摩耗深さの計測および算出手順

その他

  • 予算区分:民間資金等(資金提供型共同研究)
  • 研究期間:2019~2021年度
  • 研究担当者:金森拓也、中嶋勇、川邉翔平、森充広、有田淳一(ベルテクス株式会社)、青柳邦夫(株式会社M・T技研)、河端俊典(神戸大学)、澤田豊(神戸大学)
  • 発表論文等:
    • 有田ら、特願(2021年5月12日)
    • 有田ら、特願(2021年5月12日)
    • 金森ら(2022)農業農村工学会論文集、314(90-1):I_139-I_148