取水堰直下流の洗掘、河床低下を防ぐロールマット/ネット工法

要約

連結した護床ブロック底面にロールマットもしくはネットを敷設し、堰下流河床が低下している場合でも取水堰直下洗掘を防ぐ工法である。これらの工法は河床をドライにする必要が無く施工が容易である。ネット工法では部分的な補修も容易に行えるので維持管理も簡便である。

  • キーワード:取水堰、護床工、下流河床低下、洗掘、洪水
  • 担当:農工研・施設工学研究領域・施設保全グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

大洪水時に取水堰エプロン直下が大きく洗掘され、エプロン破壊、堰決壊等の被害につながる事例が全国で散見される。エプロン直下の河床維持には、エプロン直下の護床ブロック追加・大型化・連結化等の方策が多用されるが、下流河床が低下すると下流水位の低下や護床の傾斜化により、洪水時のエプロン直下洗掘増大に対しては遅延効果しかなくなり、洗掘自体は防げない。大洪水での堰被災のほか、中小洪水でも護床変形、護床ブロック流失からの護床改修頻度増大を来しやすい。護床ブロック間をコンクリート間詰めで補強しても護床直下洗掘による護床底面土砂漏出、護床損壊、流失は防げず、エプロン直下洗掘は防げない。結局、堰下流への床止め(小規模堰)増設が必要になる。これら洪水被災に対する復旧費用は常時の維持管理費用よりも嵩むので、堰の長期供用コストを大きく増大させる。そこで、本研究では河床低下に抗して堰の長期供用とライフサイクルコスト縮減を図るべく、大洪水時の堰被災を防ぎ、中小洪水時の護床改修頻度を低減させ、かつ床止め工法よりも低コストな護床工法を開発する。

成果の内容・特徴

  • ロールマット工法は、連結護床ブロック底面に吸い出し防止用のロールマット(既製品、不織布、幅2m)を互い違いに半幅分だけ重ねて2層敷設した護床工法である(図1)。ドライ施工が必要な接着工程は無く施工が容易に行える。ネット工法もロールマット工法と同様に、連結護床ブロック底面にネット(河床平均粒径以下の目幅)もしくはグラベルマット(砂礫を充填したネット袋を連結したマット)を敷設した護床工法である。ドライ施工が不要なうえ、パッチ施工が出来るため、部分補修も容易である。
  • 取水堰の最大規模相当の洪水を想定した水理模型実験の結果、ロールマット/ネット工法は堰の破壊原因となるエプロン直下洗掘を防げる(図2)。また、護床を繰返し改修しなければならない原因となる護床変形、ブロック流失に関しても、最大規模洪水の繰り返しに対し、護床下流部が一部たわむだけで工法自体は破壊せず、形状は安定化する(図3)。
  • ロールマット/ネット工法は堰の護床工下流に床止め(小規模堰。コンクリート構造物)と護床工を設ける必要はなく堰直下の護床工改修のみで済む。ゆえに床止め工法より50%以上の低コスト化が図れる。
  • 堰下流の堤防・護岸の安全のため、護床下流に静水池が設けられる場合がある。その底面構造にネット工法を用いても最大規模洪水での護床直下洗掘は抑えられる(図4、ネット護床静水池)。ネット工法は、連結護床ブロック下にネットを敷設する簡易構造なので、従来の鉄筋コンクリート床よりも低コストとなる。
  • 以上の護床工法の設計は従前提示したマット工法(ロールマットを接着一体化。2015年度普及成果情報)と同様に行える。その適用条件は、単位幅当たり流量30m3/s/m以下、堰高3m以下もしくはセキ上げ水深10m(可動堰)以下、河床勾配1/150以下、護床勾配1/12以下であり、これは下流河床低下が問題となる取水堰の現地条件をほぼ網羅する。

普及のための参考情報

  • 普及対象:土地改良区・市町村・県・国の改修工事担当者・堰管理担当者。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:下流河床低下が生じている農業取水堰(国交省公表データの全国161カ所の堰の築造後下流河床変動量は河床平均標高で+1~-6m、最深河床標高で最大-12mであり、ほとんどの堰で下流河床低下が見られる)。
  • その他:護床ブロック、ロールマット、ネット(もしくはグラベルマット)の上流端はエプロンに連結させ、護床ブロックは流水で浮き上がらないように十分な重量とする必要がある。堰下流の護床工の傾斜化や護床ブロックの流失が堰被災の端緒になるので、従来工法と同様、それらを目途に改修を検討する。なお、堰ゲート直下の露出射流洗掘抑止にも今回提示のロールマット/ネット工法は有効である。

具体的データ

図1 工法概要図),図2 既存工法との堰エプロン直下洗掘抑止効果の比較,図3 洪水繰り返しでの堰エプロン直下洗掘抑止効果と護床形状安定効果,図4 ネット工法の静水池適用(ネット護床静水池)による護床直下洗掘の防止

その他

  • 予算区分:交付金、民間資金等(資金提供型共同研究)
  • 研究期間:2020~2022年度
  • 研究担当者:常住直人、関谷勇太(ナカダ産業株式会社)
  • 発表論文等:
    • 常住、特願 (2020年11月6日)
    • 関谷ら、特願 (2021年12月14日)
    • 常住(2022) 河川技術論文集、28:415-420
    • 常住ら(2022) 令和4年度農業農村工学会関東支部大会講演要旨集:1-4(web)