鶏ふん炭の熔リン代替利用による土壌改良効果
要約
基盤整備での土壌改良において、リン酸補給資材として使用されている熔リンの代替として鶏ふん炭を利用することにより、土壌の中和やリン酸補給と同時に、土壌への微量要素の補給や炭素貯留が可能となる。
- キーワード:バイオ炭、土壌改良資材、微量要素、Jクレジット、鶏ふん炭
- 担当:農村工学研究部門・農地基盤情報研究領域・農地整備グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
近年、バイオ炭の農地利用が注目を集めており、CO2排出削減対策としてJクレジット制度の活用が期待されている。バイオ炭の原料としては間伐材やタケといった木質バイオマスや籾殻、稲わら等の農作物残渣の他、鶏ふん等の家畜ふんがある。鶏ふんにはリン酸、カリウムといった多量成分に加え、亜鉛、銅等の微量成分が含まれる。また、鶏ふんの炭化過程では臭気成分の分解、減容化、肥料成分の濃縮、病原菌や抗生物質の消失等が生じ、これらの特徴は肥料代替資材として好ましい(図1)。このため、鶏ふん炭を肥料として利用すると同時に炭素貯留が可能となる。
圃場整備における畑地の区画拡大では、圃場の切り盛りが行われることにより、部分的に下層土が表土として露出する場合がある。このような地点では生産性の低下が懸念されるため、資材による改良が必要となる。黒ボク土のようなリン酸吸収係数の高い土壌においては、施用したリン酸が即座に土壌に固定されてしまうため、基盤整備後の土壌で栽培を行う場合には多量のリン酸施用が必要となる。なお、土壌へのリン酸補給においては、緩効性リン酸肥料である熔リンが土壌改良資材としてよく使用される。また、黒ボク土等の火山性土は亜鉛・銅も少ない傾向にあり、作物に欠乏症状が発生しやすいとされている。鶏ふん炭には亜鉛・銅等も含まれるため、これらの要素が不足する土壌への補給効果が期待できる。
そこで、リン酸や亜鉛が不足する黒ボク土を対象に、鶏ふん炭と熔リンを施用した場合においてコムギのポット栽培試験及び栽培後の土壌の分析を行い、鶏ふん炭と熔リンの違いがコムギの生育や土壌へのリン酸・微量要素補給等に与える影響を検討する。
成果の内容・特徴
- 鶏ふん炭の炭素含有率は約40%であり(表1)、木炭の炭素含有率の半分程度に相当する。Jクレジット制度におけるデフォルト値(農林水産省、2020)では、木炭の炭素含有率は77%,炭素残存率は80~89%に対して、家畜糞尿から生成されるバイオ炭の炭素含有率は38%,炭素残存率は65%であり、鶏ふん炭の重量あたりの炭素貯留量は木炭の40%程度となる。
- 鶏ふん炭のリン酸含有量は約8%で、その内の90%以上がク溶性であり、水溶性はほとんど検出されない(表1)。このため、鶏ふん炭は緩効性リン酸肥料として適性を有すると考えられ、リン酸補給資材として使用されている熔リンの代替が可能と考えられる。
- リン酸、亜鉛が不足する黒ボク土に対して、土壌のリン酸吸収係数の2、5、10%に相当するリン酸を熔リン・鶏ふん炭により施用し、コムギのポット栽培試験を行った結果、各資材の施用量の増加により収量構成要素である子実重及び養分吸収量が増加する(図2(a))。一方、熔リンと鶏ふん炭の間には有意な違いはなく、鶏ふん炭が熔リンでは肥料効果に大きな違いがないことが示唆される。
- 熔リンと鶏ふん炭の違いによる土壌pHや可給態リン酸への有意な影響は確認されず(表2)、鶏ふん炭と熔リンでは中和能や土壌へのリン酸補給能に大きな違いがないことが示唆される。また、熔リンを施用した場合と比較して鶏ふん炭の施用は土壌の可溶性亜鉛を有意に増加する(図2(b))。
- 以上より、鶏ふん炭を熔リンの代替として利用することにより、pH中和やリン酸補給に加えて、土壌への微量要素補給や炭素貯留が可能となると考えられる。
成果の活用面・留意点
- 未耕地のリン肥沃度を適切な水準に引き上げるためには、リン酸吸収係数が高い土壌ではリン酸吸収係数の5~10%のリン酸を資材により施用するという目安があり、資材のク溶性リン酸含有量に基づいて施用量を決定する。
- 鶏ふん炭はカリウムやナトリウムを多く含むため、多量施用した場合、土壌の塩基バランスを損なうことや過剰害が懸念される。このため、土壌診断を行い、例えば、交換性カリウムが蓄積している土壌には鶏ふん炭を施用しないこと等の対応が必要である。
- 銅・亜鉛は作物にとって必須成分である一方、過剰に蓄積する場合には汚染物質として取り扱われる。農用地汚染防止法による銅の基準値(水田のみ)は125ppm、農用地における土壌中の重金属等の蓄積防止に係る管理基準による亜鉛の基準値は120ppmであり、鶏ふん炭の施用によりこれらの基準値を超過しないよう留意する必要がある。
- Jクレジット制度に準じて炭素クレジットを算定するためには、鶏ふん炭の施用量や炭素含有率だけでなく、ライフサイクル全体(原料の運搬,鶏ふん炭の製造・運搬・施用等)でのCO2排出量データが必要となる。
具体的データ
その他
- 予算区分:交付金、農林水産省(脱炭素に向けた農林業環境研究)
- 研究期間:2020~2021年度
- 研究担当者:亀山幸司、久保田幸、北川巌、岩田幸良
- 発表論文等:
- 亀山ら(2022)農業農村工学会論文集、90(1):I_131-I_138
- Kameyama K. et al. (2021) Environ. Sci. Pollut. Res. 28:12699-12706