水門開度および水位の遠隔監視のための3Dカメラと画像解析を用いたカメラシステム

要約

3Dカメラと AIによる画像解析技術を組み合わせ、モバイル閉域網を用いてセキュアにデータを送信するカメラシステムである。農業用用排水路の中小規模水門施設に設置し、水門開度と水位を遠隔監視することができる。

  • キーワード:水門、防災、遠隔監視、画像解析、AI
  • 担当:農村工学研究部門・水利工学研究領域・水利制御グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業用用排水路の制御は水門等の水管理施設により行われている。農業用水門は基幹的施設に限っても全国で千ヶ所余りあり、中小規模を含めると膨大な数となる。また、混住化が進んだ地域では、周辺住宅地を含めた排水を農業用の施設が担っている地域も多く、地域防災における農業用水門の管理の重要性が増してきている。農業用水門の管理は、大規模な施設では管理者が常駐や遠隔制御システムによって24時間管理が行われているものも多い。しかし中小規模の施設の多くは、土地改良区職員や地元農家による巡回管理によって行われている。多数の水門を少人数で管理する土地改良区では、体力的な負担が大きい、夜間の作業は危険、地形や作付けまで含めた総合的な状況判断が必要などのため、遠隔に水門開度などの情報や水門状況の画像を取得したいというニーズがある。
また、沿岸部の防潮水門の管理は農業や河川、港湾、漁港など異なる管理者により行われている。東日本大震災時の津波では水門の管理者が操作時に犠牲になった事例があり、水門管理者間の連携を図り、地域一体の防災対応を行うことの必要性が明らかとなった。このため、管理者の異なる水門を一元監視するシステムの開発が求められている。
本システムは、これらのニーズに応えるため、ゲート開度、水位と画像を遠隔で監視することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 本システムの構成の主要部分は、AI演算を含む各処理を行うシングルボードコンピュータ、3Dカメラ、赤外線ライト、およびモバイルルータである(図1)。本システムは、データ取得と演算時以外はスリープ制御でほとんど電力を消費しないため、ソーラー電源システム(太陽電池、コントローラ、バッテリー)での利用も可能である(図2)。
  • 3Dカメラは、可視光画像を記録するとともに2眼のレンズの視差により対象物までの距離を測定する。コンピュータは、AIによる物体検出アルゴリズムとしてYOLO v3(You Only Look Once ver.3)を用いて可視光画像からゲート上部(天端)領域を検出し、領域の測距結果からゲートの天端高さ算出する(図3)。同様に、ゲート近傍の水位を算出する。予め多数の水門画像を教師データとして事前に学習したモデルを用いて、現地ではエッジコンピューティングを用いて撮影した画像の認識と距離算出のみを行う。
  • 通信には、セキュリティを確保するために、インターネットを経由せずモバイル閉域網通信(携帯電話回線)を利用する。モバイルルータを用いて、データの蓄積と表示を行うパソコン(管理事務所等に設置したものを想定)に可視光画像および取得したデータを送信する。
  • 実際に農業用排水路の水門に本システムを設置し、ゲート高さと水位の測定を行ったところ、ゲート高さで誤認識があるものの概ね良好に計測できている(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 実用システムの試作を予定しており、処理プログラムの改善およびサーバ用プログラムの完成後、一般に利用可能となる。
  • 夜間の赤外線ライトの光量不足や、昼間の太陽光による白飛び化および水面の鏡面化による不検出を防ぐための撮影条件の調整が必要である。

具体的データ

図1 システム構成,図2 カメラシステムの設置例,図3 3Dカメラによるデータの例,図4 計測結果例

その他

  • 予算区分:その他外部資金(SIP「スーパー台風」)
  • 研究期間:2018~2021年度
  • 研究担当者:関島建志、吉永育生、島崎昌彦、中田達、木村延明、向井章恵、吉瀬弘人、福重雄大、安瀬地一作、松岡直之
  • 発表論文等:関島ら(2021)農業農村工学会誌、89:15-18