開口高さが大きいときのゲートの流量係数の推定方法

要約

集中豪雨等による急激な水位上昇への安全なゲート操作を目的として、ゲートからの放流量の計算に不可欠な係数(流量係数)のうち、閉鎖初期や全開直前のように、開口高さが大きいときの値を推定する方法である。

  • キーワード:ゲート、潜り流出、開口高さ、流量係数、流れの数値解析
  • 担当:農村工学研究部門・水利工学研究領域・水利制御グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水路や河川における流量や水位の制御に用いられるゲートからの放流量の計算には、流量係数が不可欠である。この係数は、ゲート操作のうち閉鎖初期や全開直前のように、潜り流出となり、かつ開口高さが大きい条件については、理論値と実験値の一致が確認されておらず、その適用は難しいと考えられている。近年、発生頻度が急増している集中豪雨や局地的大雨によって水位が急激に上昇したときの安全な放流のためのゲート操作には、このような条件の流量係数の把握が有効である。本研究では、ゲートからの潜り流出の数値解析の結果を用いて、その推定方法を提案する。

成果の内容・特徴

  • ゲートの流量係数として、最も普及しており、理論値が得られるHenryによるものを対象とする。この係数を用いる場合の単位幅あたり放流量は、下記のように計算される。
    流量係数×開口高さ×(2×重力加速度×ゲート上流側水深)0.5
  • ゲートからの潜り流出の数値解析を行う。条件としてゲート全開状態のときのフルード数が農業用水路で多い0.3~0.4程度となるように設定している。数値解析で使用する手法は、2019年度の研究成果情報「大きな水面変動を伴う落差工の波立ちの数値解析手法」と同一である。
  • 上記2の数値解析で得られる流量係数とゲート上流側水深/開口高さの関係を、理論値と実験値の一致が確認されている条件(ゲート下流側水深/開口高さ≧1.5)について、図1に整理する。本図より、解析値は理論値と同様にゲート下流側水深/開口高さの違いによって異なる曲線を形成するという特性を有することが確認される。また本図より、ゲート下流側水深/開口高さの分類が同一である理論値のラインからのプロットのばらつきは、実験値と比較すると、解析値の方がやや大きいものの、極端な違いはみられないと考えられる。よって、解析結果は一定程度の再現性を有すると判断し、以降の検討を行う。
  • 上記2の数値解析で得られる流量係数とゲート上流側水深/開口高さの関係を、理論値と実験値の一致が確認されていない条件(ゲート下流側水深/開口高さ<1.5)も含めて、図2に整理する。本図の近似曲線はゲートの閉鎖過程を想定したものであり、ゲート全開時の流れの状態が同じで、かつ、開口高さの異なるプロットを対象としているが、それらの決定係数は全て0.99以上である。このような流量係数の推定方法の汎用性が確認されれば、開口高さが大きい条件についても、理論値と実験値の一致が確認されている条件から連続的に、流量係数を用いて流量や水位の制御が可能となることが期待される。

成果の活用面・留意点

  • 本成果の活用者は、土地改良事業においてゲートの実務的な水理設計に携わる農林水産省や都道府県の技術系職員や民間の設計会社職員等の農業土木技術者である。
  • 本研究の数値解析と同一条件での実験を行い、解析値の再現性をより詳細に検証する必要がある。

具体的データ

図1 数値解析による流量係数の再現性,図2 数値解析による開口高さが大きい場合の流量係数の推定

その他

  • 予算区分:その他外部資金(資金提供型共同研究)
  • 研究期間:2020~2021年度
  • 研究担当者:浪平篤
  • 発表論文等:浪平(2021) 土木学会論文集B1(水工学)、77:I_949-I_954