不飽和領域のせん断弾性係数評価方法がアースダムの応答加速度に与える影響

要約

現行の標準的なアースダムの耐震性能照査における不飽和領域のせん断弾性係数の評価方法は、特定のせん断ひずみの範囲でせん断弾性係数を若干過大評価する。そのため、不飽和領域の広い範囲で応答加速度を小さめに見積もる傾向があり、照査結果の解釈に注意が必要な場合がある。

  • キーワード:アースダム、耐震性能照査、せん断弾性係数、不飽和
  • 担当:農村工学研究部門・施設工学研究領域・施設整備グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

現行の大規模地震に対するアースダムの耐震性能照査の標準的な方法では、等価線形化法による地震応答解析を行って応答加速度を算出し、その加速度を用いてすべり安定解析を実施する。地震応答解析に使用する材料の動的特性に関する代表的なパラメータとして、初期せん断弾性係数G0、せん断弾性係数Gとせん断ひずみγの関係がある。同じ材料でも飽和状態と不飽和状態ではG0G-γ関係は異なるが、現行のアースダムの耐震性能評価では、G0は両状態で異なる数値を与え、G-γ関係については不飽和状態のものは飽和状態のものと比例関係にあると仮定するのが一般的である。本研究では、このような物性評価の方法が現行の耐震性能照査方法において算出される応答加速度に与える影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 土質試験の結果により、G-γ関係は、小ひずみレベルで不飽和状態が飽和状態よりもGが大きく、中ひずみレベルに向かうに従って両者の差は小さくなり同一または僅差になる。(図1(a))
  • 飽和状態と不飽和状態のG-γ関係は完全には比例関係を有していないため、不飽和状態のG-γ関係に関する現在の一般的な評価方法は、中ひずみレベルでせん断弾性係数を実際よりも大きく評価する傾向がある(図1(b))。
  • 図2に示すメッシュ図と入力地震波を用いて、不飽和領域のG-γ関係について、(A)土質試験データに基づきモデル化した場合と、(B)飽和領域のG-γ関係に比例すると仮定した場合(従来の方法)について、地震応答解析を実施し比較すると、両者の最大応答加速度の分布形状は全体としては概ね同じ傾向を示す(図3)。
  • ある地点における(B)と(A)の最大応答加速度を比較すると、(B)は(A)に比べて、堤体内の不飽和領域の広い範囲で応答加速度が小さくなる。また、飽和領域では応答加速度が大きくなる箇所と共にそのすぐ下側に小さくなる箇所が発達する傾向がある(図4)。
  • 現行の一般的なG-γ関係の評価法では、不飽和領域では応答加速度を過小に評価する可能性があり、すべり面が不飽和領域を中心に発達する場合は危険側の評価になる可能性が高く、注意が必要である。G-γ関係の評価法の違いが応答加速度に及ぼす影響は入力地震動が大きいほど顕著になる。ただし、その過小評価の割合は、今回の解析条件(最大入力加速度が5.0 m/s2)で1割以下である(図4)。このため、安全率に余裕がない場合を除けば堤体の安全性評価に大きな影響が生じる可能性は低いと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 本研究成果は、現行のアースダムの耐震性能照査結果の解釈の際の留意点として活用できる。
  • 本研究成果は,現行のアースダムの耐震性能照査の標準的な方法をため池に適用する場合にも活用できる。
  • 不飽和状態の土質試験データは事例が少ないため、データを蓄積する必要がある。また、ダムの堤高やゾーニング、堤体内の水分状態の遷移、不飽和領域の材料の強度特性等の影響については別途の検討が必要である。

具体的データ

図1 飽和状態と不飽和状態のG -γ関係,図2 数値解析に使用したメッシュ図と入力地震波,図3 最大応答加速度の分布,図4 最大応答加速度の比(図3(B)/図3(A))の分布

その他

  • 予算区分:交付金、文部科学省(科研費 17K08012)、民間資金等(資金提供型共同研究)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:田頭秀和、林田洋一、黒田清一郎、中嶋勇
  • 発表論文等:田頭ら(2021)ダム工学、31(1):40-52