ほ場間移動に対応した自動走行農機を導入するための農場の設計支援ツール

要約

実際の農場を再現したサイバー空間上で、ほ場間移動に支障のある走行路の箇所を自動検出するとともに、無人走行する際に必要となるデジタルマップを自動生成するツールである。ユーザーが利用する自動走行農機に応じた安全な走行路の設計とマップの生成が簡便にできる。

  • キーワード : 自動走行農機、デジタルマップ、走行シミュレーション、フィジカル空間、サイバー空間
  • 担当 : 農村工学研究部門・農地基盤情報研究領域・空間情報グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

一般に自動車分野の自動運転では、公道が対象であり、車両走行に支障のない道路インフラが整っていることが前提である。一方、農機には大小異なる車両・作業機があって、狭小な幅員や急傾斜、段差など走行路環境もさまざまであるため、ほ場間を移動する間に、通行に支障のある箇所が必ず存在する。このため、ほ場間移動に対応した自動走行農機を導入する際には、車両が走行路を逸脱したり、車両の姿勢角が極端に大きくなるために横転したり、あるいは障害物に接触したりするなどの事故リスクに対して、あらかじめ走行路に支障のある箇所を抽出し、安全な走行路を確認・整備しておく必要がある。また、これに併せて、ほ場間を無人で移動するための自動走行用デジタルマップの整備が必要となる。これらのニーズに対応するには、実際の農場を再現したサイバー空間上で、地理空間情報データに基づいた走行シミュレーション技術が欠かせない。このようなフィジカル空間とサイバー空間を融合した高度なデジタル技術は、現在、世界的に開発が進められているが、農場の特殊な環境条件に対応したソフトウェアがない上、これらの技術を駆使するには、専門的な知識に加えて煩雑な作業が求められる。そこで、本研究では、全国各地で自動走行農機用に適した農場整備およびデジタルマップの整備を簡易に実施できる設計支援ツールの開発を行う。具体的には、ユーザビリティーの高いUIにより直感的な操作で、デジタルマップを構成する非実在地物情報(走行路中心線および交差点、車両経路線および経由、隣接物の情報)のデータや、自動走行農機の経路を自動的に生成するソフトウェアである。

成果の内容・特徴

  • 本ツールは、実際の農場をサイバー空間に再現するためのソフトウェア(以下、作図ソフトと呼ぶ)と、走行シミュレーションによる走行路の支障箇所の自動検出機能およびデジタルマップの自動生成機能を有するソフトウェア(以下、シミュレーションソフトと呼ぶ)で構成される(図1)。
  • 作図ソフトでは、高精度3次元点群データから作成したLandXML形式である「TINデータ」、「オルソ画像」および属性情報を含むベクター情報である「シェープファイル」を入力データとし、これらのデータから走行路エリア等を識別し、非実在地物情報である仮想走行路境界線、走行路中心線および交差点を自動生成する(図2)。なお、シェープファイルは、QGIS等で作成した地理情報データであるが、作図ソフト内で同様のデータを作成することも可能である。
  • シミュレーションソフトでは、作図ソフトで出力した仮想空間データ(kmz形式)を入力データとする。ユーザーは利用したい自動走行農機と装着する作業機を選択して、走行シミュレーションを実行することにより、自動抽出された走行路の支障箇所を画面等で確認することができる(図3)。また無人でのほ場間移動に利用する自動走行用の高解像度デジタルマップ(以下、FarmMapと呼ぶ)を出力することができる(図4)。
  • FarmMapは、農地環境特有の走行環境を考慮して、車両が安全に走行するための実在地物情報および非実在地物情報に加え、特定の車両やメーカーに限定されないような共通仕様を指向して策定した。図4に農地環境に対応した高精度デジタルマップの仕様イメージを示す。
  • ※LandXML : 土木分野における設計・測量データのオープンなデータ標準を目指したXMLフォーマット。
  • ※TIN : 地理情報システム(GIS)で利用するための、地表面を三角形の集合で表現するデジタルデータ構造。
  • ※オルソ画像 : 航空写真を、真上から見たような画像に変換したもの。
  • ※シェープファイル : 図形情報と属性情報をもった地図データファイル。
  • ※kmzファイル : 三次元地理空間情報の表示・管理を目的とした情報をXMLで記述したファイル

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 農機メーカー、ITベンダー、普及指導機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : ほ場間移動に対応した自動走行農機の導入面積
  • その他 : 自動走行農機のほ場間移動は2030年の実用化を目指す施策となっており、本ツールを用いて、ほ場間移動に適した農場設計やほ場整備事業に活用されることで、実際の自動走行に必要な社会制度およびビジネスモデルの構築の加速化が期待できる。

具体的データ

図1 設計支援ツールの構成,図2 サイバー空間上にリアルな仮想空間を構築する作図ソフト,図3 走行路の不具合とデジタルマップを自動生成するシミュレーションソフト,図4 FarmMapと高精度デジタルマップの仕様(専用Viewerによる表示)

その他

  • 予算区分 : 交付金、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間 : 2018~2022年度
  • 研究担当者 : 松島健一
  • 発表論文等 :
    • 松島「情報処理装置、情報処理方法、プログラム、および構造体」特開2020-197634(2020年12月10日)
    • 松島「情報処理装置、情報処理方法、およびプログラム」特開2022-042745(2022年3月15日)
    • 松島、特願(2022年2月14日)