要約
大雨後のある時点(標準的には2~3月、大雨の5~6日後)にSentinel-2またはSentinel-1が観測した衛星データと圃場区画データを用いて水田の排水性の良否を圃場毎に判定する手法である。本手法による排水性評価マップは、暗渠排水計画や水田転作の適地判定等において活用できる。
- キーワード : GIS、筆ポリゴン、リモートセンシング、短波長赤外バンド、VH偏波
- 担当 : 農村工学研究部門・農地基盤情報研究領域・空間情報グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
圃場整備を行う際、暗渠施工の必要性を判断するために検土杖等を用いた土壌調査が行われているが、そのようなピンポイントの土壌調査では、排水性の良否を面的に判定することが難しい。そこで、暗渠排水計画や水田転作の適地判定に資するためSentinel-2またはSentinel-1の衛星データと圃場区画データを用いて水田の排水性の良否を圃場毎に判定する手法を開発する。
成果の内容・特徴
- 本手法では、稲収穫後の圃場のうち「耕起が行われ、かつ、麦が作付けられていない水田」を対象圃場とし、大雨後のある時点(標準的には2~3月、大雨の5~6日後)における田面の乾湿状態に基づいて排水性を相対的に評価する。すなわち、排水性の悪い圃場ほど大雨の後、田面がなかなか乾かないことに着目し、田面が湿潤状態の圃場と田面が乾燥状態の圃場が地区内で適度に混在した時点において、田面が湿潤状態であった圃場を「排水不良」、田面が乾燥状態であった圃場を「排水良好」と判定する。判定結果(排水性評価マップ)は、暗渠排水計画や水田転作の適地判定等において活用できる。
- Sentinel-2 衛星データ(無償。観測は5日毎)を利用するが、同データは光学センサーデータであるため、上記の時点にタイミング良く晴天時のデータが得られていなければ利用できない。その場合、次善策として合成開口レーダ(SAR)データであるSentinel-1 衛星データ(無償。2021年まで観測は6日毎)の利用を検討する。同データは、精度は劣るが、雲に影響されない。
- Sentinel-2 衛星データを用いた判定手順を図1 に示す。まず、近赤外のBand 8を赤、短波長赤外のBand 12を緑・青に配色したB8-12-12カラー画像(図2(a))を作成する。次に、同画像に田の圃場区画データ(農林水産省の「筆ポリゴン」を利用)を重ねてBand 8 とBand 12 の画素値(反射率)の区画平均を算出する。次に、同画像を目視して、明るく淡い赤色を呈する区画(未耕起状態。非対象)、明るく淡い青色を呈する区画(排水良好)、暗い灰青色を呈する区画(排水不良)を無作為に抽出し、散布図から閾値X、Yを決定する。最後にBand 8の区画平均が閾値X未満の圃場のうち、Band 12の区画平均が閾値Y以上の圃場を「排水良好」、閾値Y未満の圃場を「排水不良」と判定し、排水性評価マップ(図2(b))を作成する。
- Sentinel-1 衛星データを用いた判定手順を図3 に示す。その手順はSentinel-2衛星データを用いた判定手順(図1)と類似したもので、VH偏波のSAR画像(図4(a))を利用し、画素値(後方散乱係数)の区画平均が閾値Z未満の圃場を「排水良好」、閾値Z以上の圃場を「排水不良」と判定し、排水性評価マップ(図4(b))を作成する。
- ある地区において航空写真画像の目視判読による判定結果(圃場の田面が一部でも乾いていれば排水良好と判定。この判定結果を真値と仮定)と照合して得られた正答率(面積ベース)は、Sentinel-2 衛星データを用いた場合が84%、Sentinel-1 衛星データを用いた場合が78%である。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 国・都道府県の圃場整備や生産振興の担当者、大規模水田農家。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 適用可能な衛星データが得られている低平地水田。
- その他 : 大雨から衛星観測日までの日数によって判定結果が異なる。その異なる判定結果を組み合わせて排水性の良否をさらに細分化した評価マップを作成することもできる(図2(b)は2区分の評価マップだが、大雨の3日後、8日後、13日後の晴天時のSentinel-2衛星データも得られているので、「かなり排水良好」、「かなり排水不良」など5区分の評価マップも作成可能)。無償Webツール「EO Browser」を利用すると、誰でも簡単にSentinel-1と2の衛星データを検索してB8-12-12 カラー画像やVH偏波のSAR画像をブラウザ画面に表示させることができる。高性能PCでなくても評価マップの作成(GISソフトを利用)は可能である。本成果は「ARIC情報」の研究レポート(PDFがダウンロード可)で詳細に紹介している。
具体的データ
その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2021~2022年度
- 研究担当者 : 篠原健吾、福本昌人
- 発表論文等 :