集排汚泥と食品廃棄物のメタン発酵における安定発酵条件の解明、消化液の肥料特性評価

要約

集排汚泥と地域バイオマスを原料としてメタン発酵を行ってエネルギーを生産し、消化液を液肥として利用する小規模分散型のシステムにおいては、原料へのコバルト添加、C/N比を目安とした原料配合により、安定したメタン発酵を実現でき、消化液は化学肥料代替として利用できる。

  • キーワード : 農業集落排水、バイオマス、メタン発酵、資源循環、肥料
  • 担当 : 農村工学研究部門・資源利用研究領域・地域資源利用・管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

農業集落排水施設(以下、「集排施設」という)では維持管理費削減が課題であり、その大部分を汚泥処理費(63%)が占める。また、食品廃棄物や農作物非食用部の利用率は、24%、32%(バイオマス活用推進基本計画(第2次))と低く、利用率の向上が課題である。農業集落排水汚泥(以下、「集排汚泥」という)と食品廃棄物や農作物非食用部との混合メタン発酵は、再生可能エネルギー源であるメタンを取り出せ、集排施設の維持管理費削減、地域の廃棄物処理コスト削減、CO2排出量削減を同時に実現できるため、上記課題の有望な解決策である。さらに、発酵残渣である消化液を液肥として利用することにより、化学肥料使用量の削減や地域内の資源循環にも貢献する(図1)。
そこで、本研究では、上記システム実現に向けて、「混合メタン発酵の安定条件」、「消化液の肥料特性」等を、室内メタン発酵試験、現地実証試験により明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本成果は、集排施設にメタン発酵施設を併設し、施設で発生する集排汚泥(一般的に集排施設で発生する濃縮汚泥(含水率約98%)の利用を前提とする)と周辺地域で発生する地域バイオマス(家庭生ごみ、食品廃棄物、農作物非食用部等)を原料としてメタン発酵を行い、エネルギーを生産するとともに、発酵残渣である消化液を液肥として利用する小規模分散型のシステム導入における、メタン発酵の安定発酵条件の解明と消化液の肥料特性評価を行ったものである。メタン発酵は、原料の半分を集排汚泥、残りを地域バイオマスとすることを基本とし、有機物負荷率約2.0~2.5 kg/(m3 ・日)、滞留時間約30日の条件での運転を基本とする。
  • メタン発酵は微生物反応であるため、微生物の基質である原料の組成によっては、ガス発生量の低下等の発酵不良状態となる。メタン発酵の必須微量元素の大部分は集排汚泥から供給されるが、コバルトだけは不足することがあるため、添加が必要である。また、配合された原料のC/N比(窒素に対する炭素の比率)が17程度以下になるように調整することにより、安定した発酵が実現できる(図2)。
  • 集排施設にメタン発酵施設を追加することによる維持管理作業として、生ごみ等原料の受け入れ、設備の保守点検、トラブル対応、液肥の搬出・運搬等があり、その多くは集排施設の通常管理を行っている維持管理業者により対応可能である。
  • 集排汚泥と地域バイオマスを原料とする消化液の全窒素濃度は0.2~0.3%、アンモニア態窒素濃度は0.1~0.2%であり、原料に食品廃棄物のおからを配合とした場合には、窒素濃度が高めの液肥となる(表1)。また、消化液中の有機態窒素のうち、土壌施用後に無機化して作物が利用できる無機態窒素になる割合は小さい。そのため、有機態窒素分は考慮せずに、アンモニア態窒素を基準とした施肥設計が可能である。
  • 表1の消化液を化学肥料の代わりに使用した場合、水稲、コマツナ、リーフレタス等の生育・収量とも化学肥料と同等である(図3)。集排汚泥と地域バイオマスを原料とする消化液は、化学肥料代替肥料として利用可能である。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 市町村、メタン発酵事業者。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 汚泥やバイオマスが活用可能な全国の農村地域。
  • その他 : 本成果は、汚泥や地域バイオマスを原料とするメタン発酵施設の設計、消化液の液肥利用計画策定に活用できる。また、本成果は一般社団法人地域環境資源センターとの共同研究の成果であり、同センターとの共著の手引きを活用して、連携して普及活動を行う。

具体的データ

図1 集排汚泥と地域バイオマスのメタン発酵システム,図2 メタン発酵の安定条件(上:コバルト添加の効果、下:原料C/N比の影響),表1 消化液の肥料成分,図3 消化液を用いた栽培試験(水稲)

その他

  • 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)、民間資金等(資金提供型共同研究)
  • 研究期間 : 2017~2021年度
  • 研究担当者 : 中村真人、折立文子、山岡賢、柴田浩彦((一社)地域環境資源センター)、蒲地紀幸((一社)地域環境資源センター)
  • 発表論文等 :