要約
農業用排水路の護岸に用いられている鋼矢板について、ドローン等によって取得した可視画像と熱画像に対して画像解析手法を適用することで、板厚推定が可能である。長大な鋼矢板水路の状態評価の効率化に貢献できる。
- キーワード : 鋼矢板、状態評価、ドローン、熱画像、画像解析
- 担当 : 農村工学研究部門・施設工学研究領域・施設保全グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
鋼矢板水路は、地盤が軟弱な地域の排水路として主に整備されている。鋼矢板の腐食が進行すると、板厚減少、開口(欠損)、背面土の吸出しなど、水路の構造的安全性が損なわれる。鋼矢板の健全性の調査では、目視による腐食範囲の抽出や欠損部の調査、接触式の超音波厚さ計による板厚の確認が重要項目である。しかしながら、延長が長い鋼矢板水路全体の調査には時間を要し、仮締切りによる排水処理など、調査が大がかりとなり、コストを要することが課題である。
そこで、本研究では模型実験の結果から、ドローン等によって取得した画像と画像解析、および気象条件等を考慮した機械学習を用いることで鋼矢板の板厚推定が可能であることを示す。
成果の内容・特徴
- 本成果では、鋼矢板水路の健全性調査の効率化を目的として、画像処理等による板厚推定が可能かを検証する。検証は、ドローン等無人機(以降、ドローン)によって解析に用いる画像を効率的に取得できるかを確認し(図1)、温度情報によって板厚推定が可能かを示し(図2)、実際の熱画像の撮影条件は多様であるため、機械学習の適用性を確認することで行う(図3、4)。
- 解析に用いる画像の取得にはドローンを使用する。ドローンは、鋼矢板水路の条件により、飛行タイプ、水上タイプを使い分ける(図1)。切梁式護岸の水路では切梁の下を飛行することが望ましく、飛行に必要な空間が確保できない場合には水上タイプを選択することが望ましい。ドローンを用いることによって、従来の人による調査と比較して、長大な水路を効率的に調査することが可能となる。
- 腐食鋼矢板を模擬した板厚の異なる腐食鋼材、および背面土を模擬したガラスビーズによって構成された腐食鋼矢板護岸模型(図2左)に対して、鋼材側に熱源を用いて伝熱現象実験を行うと、板厚と加熱過程の温度変化量との間に相関が得られる。また、1次元熱伝導解析により鋼材裏面の熱流束挙動を概ね再現でき、鋼矢板護岸の熱伝導現象を再現できる(図2右)。これによって、鋼矢板の温度に着目することで板厚の推定が可能となる。
- さらに、気象条件(正味放射量と顕熱輸送量)を考慮して機械学習を用いることで、可視(RGB)画像と熱画像とから板厚を推定できる。腐食鋼矢板を屋外暴露し、気象条件、可視画像、熱画像を取得し、機械学習による板厚推定が可能か検証したところ、正解率、再現率、適合率、F値それぞれにおいて0.8以上の高精度で板厚を分類できることを確認している(図3、4)。
成果の活用面・留意点
- 板厚に加えて鋼矢板の型式や地盤条件などを考慮することで、鋼矢板護岸の倒壊に対する安全性などの構造的評価に活用することができる。本成果によって広範囲の板厚を推定できれば、長大な鋼矢板水路の評価の効率化に活用できる。
- 解析に用いる画像の撮影では、水位変動部等の腐食が顕著な部分が撮影可能な時期、日向と日陰が混在しない時間帯などに留意して適切な時期を考慮することが望ましい。また、撮影条件や解析結果の解釈には、植生の影響や泥等の付着の有無などについても検討が必要である。
- 上記に挙げた撮影条件等に関して実水路での検証を行うことで、本成果による板厚推定手法の適用条件などを明らかにできる。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(官民連携新技術研究開発事業)
- 研究期間 : 2020~2022年度
- 研究担当者 : 川邉翔平、中嶋勇、金森拓也、阿部幸夫(日鉄建材株式会社)、原田剛男(日鉄建材株式会社)、大高範寛(日鉄建材株式会社)、藤本雄充(日鉄建材株式会社)、北慎一郎(日鉄エンジニアリング株式会社)、鈴木哲也(新潟大学)、萩原大生(新潟大学)、島本由麻(東京農工大学)
- 発表論文等 :
- 萩原ら(2022)農業農村工学会論文集、90:I_239-I_250
- 川邉ら(2022)鋼矢板水路の腐食と物性特性「農業用鋼矢板水路の機能診断と保全-非破壊検査と新たな材料開発-」pp.1-24、養賢堂、東京
- 島本ら(2022)機械学習による腐食鋼矢板の画像診断「農業用鋼矢板水路の機能診断と保全-非破壊検査と新たな材料開発-」pp.89-118、養賢堂、東京
- 鈴木ら、特願(2022年8月10日)