要約
高圧水流による摩耗作用に対して、けい酸塩系含浸材およびシラン系含浸材はモルタル表層部の摩耗を抑制し、両含浸材を併用することでその効果は大幅に向上する。ただし、シラン系含浸材を塗布したモルタルでは、表面から深くなるにつれて摩耗が急激に進む傾向がある。
- キーワード : 表面含浸材、水流摩耗試験、耐摩耗性、改質深さ、農業用水路
- 担当 : 農村工学研究部門・施設工学研究領域・施設保全グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
表面含浸材は、コンクリート表面に塗布することによって緻密性や吸水防止性を向上させる効果を有し、施工性や経済性に優れるコンクリート改質材として注目されている。近年、農業用水路への表面含浸材の適用が検討されているが、水路特有の劣化である摩耗に対する表面含浸材の効果は十分に明らかでない。そこで、本研究では、各種表面含浸材がモルタルの耐摩耗性に及ぼす影響について、コンクリート水路の摩耗形状を模擬できる水流摩耗試験(図1)を用いて検証する。
成果の内容・特徴
- 水流摩耗試験における試験時間とモルタル試験体の平均摩耗深さの関係を図2に示す。けい酸塩系含浸材を塗布したモルタル(図2a)では、含浸材無塗布と比較して、試験時間1hまでの平均摩耗深さが有意に小さく(t検定、有意水準5%)、それ以降は平均的にはやや小さい値で推移している。したがって、けい酸塩系含浸材はモルタル表層部の摩耗を遅延させる。
- 含浸材無塗布と比較して、シラン系含浸材を単体塗布したモルタル(図2b)およびけい酸塩系含浸材とシラン系含浸材を併用塗布したモルタル(図2c)では、それぞれ試験時間15分、試験時間4hまでの平均摩耗深さが有意に小さい(t検定、有意水準5%)。また、けい酸塩系含浸材とシラン系含浸材の併用塗布では試験初期における平均摩耗深さが顕著に小さく(図2c)、この傾向は試験体の外観からも確認できる(図3)。以上のことから、表層部に限れば、シラン系含浸材を塗布することによって摩耗は抑制される。さらに、けい酸塩系含浸材とシラン系含浸材を併用することで相乗的な摩耗抑制効果が得られる。
- 図2b、図2cより、シラン系含浸材を塗布したモルタルでは含浸材無塗布よりも試験初期(表層部)における平均摩耗深さは小さいが、シラン系単体では試験時間6h、けい酸塩系とシラン系の併用では試験時間8hで無塗布との大小関係が逆転し、試験時間10h時点での平均摩耗深さは無塗布よりも顕著に大きい。この結果は、シラン系含浸材は表面から深い位置での摩耗を加速させる可能性を示唆するものであり、深さによっては必ずしも摩耗の抑制につながらない可能性がある。
- 図4に、けい酸塩系含浸材の単体塗布および含浸材無塗布を例として、表面からの深さと摩耗速度の関係を示す。表面から約0.3mmの範囲では無塗布と比較してけい酸塩系含浸材塗布の摩耗速度が小さく、約0.3mm以深では両者の摩耗速度はほぼ等しい。よって、けい酸塩系含浸材によって改質された範囲は、表面から約0.3mmまでの範囲と推察される。
成果の活用面・留意点
- 含浸材が耐摩耗性に及ぼす効果は、含浸材の主成分や配合によって異なると考えられる。したがって、耐摩耗性の改善を目的に含浸材を利用する場合には、使用する製品ごとに耐摩耗性を照査し、有効性を確認する必要がある。
- シラン系含浸材を塗布したモルタルにおいて、表面から深い位置で含浸材無塗布よりも摩耗の進行が速くなった要因は現時点では明らかでなく、今後メカニズムの解明が必要である。
- 水流摩耗試験は、表面からの深さと摩耗速度の関係(図4)に着目することによって、表面含浸材の改質深さの評価に活用できる可能性がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、民間資金等(資金提供型共同研究)
- 研究期間 : 2020~2022年度
- 研究担当者 : 金森拓也、森充広、川邉翔平、泉伸一(泉建設工業株式会社)、豊吉明彦(泉建設工業株式会社)
- 発表論文等 : 金森ら(2022)コンクリート工学年次論文集、44(1):1438-1443