ラドン濃度などの水質測定と水温の連続観測による河川への地下水流出現象の調査方法

要約

河川水のラドン濃度などの水質測定と自記ロガーによる水温の連続観測により、河川への地下水流出区間と時期による流出状況の変化を把握する手法である。生態系配慮対策の検討や農地水管理による多面的機能が河川の水域環境に与える影響の評価に利用可能である。

  • キーワード : 水循環、河川・水路、農地の多面的機能、生物多様性、環境トレーサ
  • 担当 : 農村工学研究部門・水利工学研究領域・流域管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

農業・農村が有する多面的機能のうち、農地かんがいによる地下水涵養機能は、地域の水循環ならびに水域生態系に関与している点で重要である。地下水が流出する水域には冷水を好む魚類などが生息しているが、周辺環境の変化によって個体数が減少している。このような水域生態系を保全するためには、対象水域における地下水流出状況を把握して水路底の透水性を確保するなどの生態系配慮対策を適切に講じるとともに、水田の水管理が地下水流出に与える影響を評価して多面的機能を発揮するための施策をとることが求められる。河床からの地下水流出の検知には従来からラドン濃度を指標にしてきたが、河川水の水温観測を併せて実施することによって、地下水流出現象の季節的な変化や降水・水田水管理の影響を把握できるようになり、より効果的な対策の策定に貢献することが期待される。

成果の内容・特徴

  • 本調査方法は、調査対象となる河川でサンプリングした河川水のラドン濃度の測定と、河川水中に設置した自記水温センサによる水温観測を主な手段とする(図1)。
  • 一般に、地下水は地表水に比べて高い濃度のラドン(222Rn)を含んでいる。このため、地下水が流出している区間の河川水は相対的にラドン濃度が高い(図2)。
  • また、一般に、地下水は地表水に比べて水温変動が小さい。このため、地下水の流出が推定される区間で間隔を置いて複数の水温計を河川水中に設置して連続観測をすると、地下水の影響を受けない上流部では季節や日照などの影響による大きな水温変化が見られるが、地下水が流出している区間では水温変化が比較的小さくなる(図3)。
  • 複数の異なる時期に河川水のラドン濃度を測定し、河川水温の変化を併せて検討することによって河川への地下水流出現象の特徴を把握することができる。図2と3に示した事例では、夏期の調査時には冬期よりも下流から地下水が流出していること(図2)、冬期は持続的に地下水が流出しているが、夏期は降水から約3日後まで地下水の流出が顕著となっていることが分かる(図3)。
  • 河川水のラドン濃度と他の水質項目の関係をプロットし、周囲の地下水・湧水と比較することで河川に流出する地下水の起源を推定できる。図4の事例では、河川水のプロットの延長線上から井戸水のプロットが離れているため、異なる起源の地下水が寄与していると判断できる。

成果の活用面・留意点

  • 農業農村整備における水路の更新・補修での生態系配慮対策の検討において、地下水流出範囲を特定し、時期による状況の変化を把握するために利用できる。
  • 本調査手法の結果を踏まえて河床から流出する地下水の起源を検討することによって、冬期湛水などの多面的機能の増進を図る活動が河川への地下水流出に与える影響を評価することができる。
  • 幅1.2~1.4 m程度の小河川で実施した研究によって得られた知見に基づく調査方法であり、同規模でかつ全幅において概ね流況が変わらない河川・水路であれば適用可能である。

具体的データ

図1 調査の手段,図2 河川水のラドン濃度分布,図3 河床での自記観測による水温変化,図4 ラドン濃度と主要イオン濃度の関係

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(農林水産分野における地球温暖化対策のための緩和及び適応技術の開発)、その他外部資金(石川県受託)
  • 研究期間 : 2012~2020年度
  • 研究担当者 : 吉本周平、土原健雄、白旗克志、石田聡
  • 発表論文等 : 吉本ら(2020)農業農村工学会論文集、88: I_281- I_294