周期性を有するデータのAI予測精度を向上させるための前処理方法

要約

定点観測で収集された周期性を有するデータをAIで予測する際に、データに含まれる周期的な特徴を抽出して生成したデータを学習に追加することで予測精度を向上する方法である。規則的な機械操作や生活リズム等に起因する周期性を有するあらゆる時系列データの予測に活用できる。

  • キーワード : AI予測モデル、時系列データ、周期特性、学習データの前処理、スペクトル解析
  • 担当 : 農村工学研究部門・水利工学研究領域・水利制御グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

ICTの進展に伴い、様々な分野でデータの収集と活用が進んでいる。データの活用では、観測データをもとにAIにより将来の状態を予測(AI予測)し、人の行動を最適化する取組が行われている。しかし、AI予測では、長期にわたる観測データが必要であったり、予測時間(リードタイム)が長くなると予測精度が低下したりするなど、実用面で解決すべき課題は多い。特に、数時間先の状態を適切に予測できれば機器の自動化につなげることができるため、各種施設の操作管理の省力化に向けて予測精度の改善への期待は大きい。本研究では、通常時の観測データの周期性に着目し、学習データの前処理方法を工夫することで、リードタイムが数時間の予測精度を向上させる。

成果の内容・特徴

  • 定点で観測される時系列データには、規則的な機械操作や生活リズム等に起因して周期的に変化する特徴が見られるものがある。本手法では、観測データと同じ周期性の特徴を持つデータを新たに生成し、AI予測モデルの学習に加えることで、予測精度の向上を図る。
  • 観測データに含まれる周波数の成分をフーリエ変換で分解し、スペクトル解析により観測データの中で卓越するスペクトルピークを確定する。そのピークを切り出し、フーリエ逆変換を行うことで、概ね単振動の周期を有するデータを作成する。最後に、このデータを観測データに加えて、AI予測モデルの学習を行う(図1)。
  • 具体的な事例として、排水機場の遊水池で観測された水位データ(1時間間隔で約8年分のデータ)を対象に水位予測を行う。この排水機場では常時排水を行っており、調整池の水位は規則的なポンプ運転に起因する周期性を有する。本研究の前処理方法を適用した場合、スペクトル解析から約1日と約半日の周期的な特徴が得られる(図2)。
  • 観測値に約1日と約半日周期を有する水位データを追加して、時間予測に有用なLSTMを用いたAI水位予測モデルで学習し、6時間先の水位を予測する。代表的な常時排水期間において、周期性データを追加した場合(周期性有)と追加しない場合(周期性無)の予測結果を比較すると、周期性を加えることで水位波形のピークが改善される(図3)。観測データを10分割し、交差検証法を用いた予測精度の検証では、周期性有は周期性無と比べて全期間で約5 %の予測精度の改善が見られる。

成果の活用面・留意点

  • 事例の排水機場水位予測への適用のみならず、例えば、下水道の流量変化のように、日常の生活のリズムに関連した周期性のあるデータにも適用が期待される。
  • 予測データに適用する場合、予測データが、学習データの周期特性と同様な周期特性を持つ必要がある。

具体的データ

図1 データ処理の手順,図2 スペクトル解析結果,図3 周期性データ有(赤線)・無(青線)の6時間先までの水位予測結果と観測値(黒線)との比較

その他

  • 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)、民間資金等(助成金)
  • 研究期間 : 2021~2022年度
  • 研究担当者 : 木村延明、吉永育生、皆川裕樹、福重雄大、馬場大地((株)アーク情報システム)
  • 発表論文等 :
    • 木村ら(2022)AI・データサイエンス論文集、3(J2):85-91
    • 木村、特願(2022年10月25日)