越流とオリフィス流を併用した複合セキの取水位安定性

要約

用水系統末端の開水路形式の小用水路から水田に取水するために、セキ板による越流にオリフィス流を併用した複合セキを用いる場合の取水位の安定性に関する情報である。複合セキを導入することにより、小用水路の水位が変動しても安定して水田への取水が可能になる。

  • キーワード : 小用水路、セキ板、水理実験、取水、越流、オリフィス流
  • 担当 : 農村工学研究部門・水利工学研究領域・水利制御グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

用水系統末端の開水路形式の小用水路では、水田の取水量を一定にすることを目標として、取水地点での水位変動を抑制するための水口の開度調整およびセキ板の高さ調整が日常的に行われている。担い手不足等により、これらの操作にかかる過大な労力の軽減は急務であり、小用水路の流量が変化しても上流水深が大きく変動しない放流特性を有するセキの開発が求められている。これが実現できれば、担い手に集積・集約化された農地では、1ヶ所の配水ゲートから複数圃場に一括して給配水を行うことが可能になる。そこで本研究では、小用水路から水田への取水において、従来のセキ板に代わり複合セキを導入するために、潜り流出(セキ下流水深がオリフィス流開度よりも大きい場合)となる現地条件での水理実験を行い、水田への取水地点での水位変化を抑制し、取水量の変動を抑える効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 水路流量の変化に対して水位変動を抑制する技術には、越流部を長くした斜めセキやduckbill weir等がある。しかし、これらの技術は、一般に幹線用水路への適用事例が多く、既設のセキからこれらの施設へ変更するには土木工事を伴うため、小用水路への導入は容易ではない。これに対し、複合セキは、セキ板の下部にオリフィス流部を設け、現地の条件に合わせてオリフィス流部の開度を設定するのみであり、小用水路にも容易に導入できる(図1)。
  • 複合セキの水理特性を明らかにするため、セキ模型を用いた水理実験を行い、セキ上流水深(h1)と単位幅流量(q)の関係を評価する(図2)。複合セキの流況は、セキ高(H)を基準に、H>h1の条件ではオリフィス流であり、h1>Hの条件ではオリフィス流とセキの越流が併用した流れとなる。複合セキの流れは、セキ越流水深(h0:h1-H)が比較的小さい0.02m以下では越流する流れが堰板に付着し、これよりh0が大きくなると、一時的にqが増加してもh1が増大しない現象が生じる遷移区間を経て完全越流に至る。
  • 現地水路での流量観測の結果をもとに、水理実験におけるh1の安定性を評価するためのqの範囲(最小値qmin、中央値qmed、最大値qmax)を設定し、水田への取水に必要とされる水位0.172 mを目標水深としたqに対するh1の変化量を比較する(図3)。qminとqmaxのh1の差は、全幅セキ(Case1)では0.014 m、複合セキ(Case2)では0.009 mであり、複合セキを用いることで水田への取水地点での水位変化を抑制できる。なお、全幅セキに対して複合セキのh1の変化量が小さくなった理由には、複合セキでは評価対象範囲にて遷移区間が生じていることが挙げられる。
  • 水田への取水を想定した場合の取水量を比較するために、現地条件をもとに、30 aの水田1区画に必要な取水量は90 m3とし、その時の取水の継続時間は16時間を仮定する。図4より、水理実験の結果をもとに推定された水田の取水量の最大値と最小値の差は、全幅セキ(Case1)では11.1 m3、複合セキ(Case2)では7.1 m3である。このことから、今回の実験ケースでは、複合セキを用いることで取水量の変動が35 %低減する。

成果の活用面・留意点

  • 本成果の活用者は、土地改良事業における小用水路の設計に携わる農林水産省や都道府県の技術系職員や民間の設計会社職員等の農業土木技術者である。
  • 現地水路における複合セキの設計手法を確立するために、流量条件や地形条件に関する適用限界の解明や水理特性の一般化が今後の課題である。

具体的データ

図1 用水系統末端の開水路形式の小用水路からの取水イメージ,図2 複合セキの概要,図3 水理実験で得られたh1とqの関係,図4 水理実験におけるh1に基づき推定した水田の取水量の比較

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(スマート農業技術の開発・実証プロジェクト)
  • 研究期間 : 2021~2022年度
  • 研究担当者 : 藤山宗、中矢哲郎
  • 発表論文等 :
    • 藤山ら(2022)農業農村工学会論文集、90:IV_37-IV_40
    • 藤山ら、特願(2022年3月30日)