農業用ハウスにおける床面のコンクリート化により温熱環境の変動を緩和

要約

農業用ハウスの床面にコンクリートを導入すると、温熱環境(気温、湿度)の変動を緩和し、施設園芸の省エネルギー対策となる。これは日中の気温上昇の緩和では高い日射反射率、夜間の気温低下の緩和では高い熱伝導率、湿度変動の緩和では水分蒸発が生じないコンクリートの物性に因る。

  • キーワード : 園芸施設、微気象、伝熱、太陽熱利用、省エネルギー
  • 担当 : 農村工学研究部門・資源利用研究領域・地域資源利用・管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

パイプハウスや鉄骨ハウスなど園芸施設(人工光型植物工場を除く)の床面のコンクリート化は、床表面の均平化により作業ロボットの導入や養液栽培での養液の均一供給、床面湛水灌漑が可能となることや、土壌露出部をなくすことで衛生管理の向上による病害防止やGAPへの対応が容易になることなどの利点があるが、日本では長年、農地法の制限があったため普及していない。しかし、2018年の農地法改正により、コンクリート床を有する園芸施設についても、農業委員会への申請により農地として扱うことが現在では可能である。 園芸施設の温熱環境は床面で吸収された日射の熱分配により形成される。そのため、床材がコンクリートであるか土壌であるかは温熱環境の形成に強く影響するが、コンクリートを床材とした場合の、土壌と比較した温熱環境の特徴について明らかにした例は少ない。
また、農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」では、2050年までに農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現という目標を掲げている。園芸施設の環境制御には多大なエネルギーを消費しており、対策が求められる。園芸施設床面のコンクリート化は被覆資材を透過した太陽熱の吸収および放出の形態が土壌とは異なり、熱収支の差異から環境制御におけるエネルギー利用にも影響すると考えられ、コンクリート床園芸施設における温熱環境形成の特徴を明らかにする必要がある。
そこで、本研究では隣接する2棟の単棟パイプハウスにおいて、1棟の床面を土壌、もう1棟の床面をコンクリートとし、非栽植・非換気条件下で内部の温熱環境及び床面熱収支を計測・比較する基礎実験を行い、園芸施設床面へのコンクリートの導入による温熱環境形成の特徴を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本試験ではパイプハウスの床材に、路面舗装などで用いられるインターロッキング・ブロックを利用する。当該ブロックを使用する場合のコンクリート床の敷設は、6 cm厚さのブロックに対し、5 cm深さの砂基礎を用いる。ブロック間の目地は5号硅砂で埋める(図1、図2)。
  • 2019年2月7日から2月13日の期間(以下、計測期間)において、非換気条件下ではコンクリート床パイプハウスでは床面が土壌の場合より、日中最高気温は最大で11.2°C低く、夜間最低気温は最大で2.4°C高い。日中における気温上昇の緩和はコンクリートの日射反射率が土壌より高いこと、夜間における気温低下の緩和はコンクリートの高熱伝導性により、地中からハウス内空気に高効率に熱が供給されることにそれぞれ起因している。このことは、床材をコンクリートにすることで日中の暑熱対策効果及び夜間の保温効果を得ることが可能なことを示す(図3)。
  • 計測期間におけるパイプハウス内の水蒸気圧を気温・相対湿度の計測値から算出すると、日中の床面からの水分蒸発による園芸施設内の水蒸気圧の変動が床材をコンクリートとすることにより、小さくなることがわかる。これはコンクリートが液相を有さないとともに、土壌からの水分蒸発を遮蔽することに起因している。このことは、園芸施設の床面をコンクリートにすることで、土壌からの水分蒸発のように人為的に制御できない湿度環境の変化を抑えることが可能となるため、栽培戦略に合わせた高度な環境制御を可能とする(図4)。
  • 床表面熱流束の計測値から計測期間の日積算伝熱量の平均値を下向き(地中への貯留)と上向き(地中からの放出)のそれぞれについて求めると、床材が土壌の場合は日中における太陽熱の貯留と夜間における熱の放出が同等であるのに対し、床材をコンクリートとすると夜間の地中からの放出量が日中の貯留量の1.8倍となる。これはコンクリートの熱伝導率(1.2 W・m-1・K-1)が試験地土壌の熱伝導率(0.25 W・m-1・K-1)より大きいことに起因する。夜間、コンクリート床パイプハウスにおいて地中からの熱放出が日中における太陽熱の貯留を上回っているが、貯留と放出の差分の熱源として考えられるのは実験に供したパイプハウス周辺の土壌や深層土壌であり、コンクリート床の熱伝導性の高さがこれらの自然熱源からの伝熱を促進していると考えられる(図5)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、コンクリート床の導入が園芸施設内の温熱環境の変動をパッシブに低減することを示すものであり、農林水産業のなかでも多大な割合を占める施設園芸でのエネルギー消費の削減に貢献する。
  • コンクリート床にインターロッキング・ブロックを用いるメリットは破損時の修繕や床面を土壌に復帰するなどの管理作業が鉄筋コンクリートを用いる場合より容易であることである。
  • インターロッキング・ブロックを用いて床面をコンクリート化する場合、目地にアリの巣ができることがあるため、砂基礎の下にシートを敷くなどの対策を推奨する。
  • 本成果は非栽植条件下での試験結果であり、実際の栽培環境では作物による日射の遮蔽や蒸散が温熱環境に影響することに留意する必要がある。

具体的データ

図1 コンクリート床パイプハウスの内観,図2 インターロッキング・ブロックを用いたコンクリート床の断面図,図3 試験期間のコンクリート床・土壌床のハウス内と周辺環境の気温変動,図4 試験期間のコンクリート床・土壌床のハウス内と周辺環境の水蒸気圧変動,図5 試験期間の平均日積算地表伝熱量

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2019~2021年度
  • 研究担当者 : 土屋遼太、奥島里美、石井雅久、森山英樹
  • 発表論文等 : Tsuchiya R. et al. (2023) JARQ 57(1):37-45